九州における産業集積とスタートアップの成長

執筆者 浜口 伸明 (ファカルティフェロー)/岡野 秀之 (九州経済調査協会)/筬島 修三 (九州経済連合会)
発行日/NO. 2020年1月  20-J-003
研究プロジェクト 人口減少下における地域経済の安定的発展の研究
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概要

近年九州、特に福岡市においてスタートアップ企業の設立が盛んに行われていることが注目されている。本稿では次の2つの命題に基づいて分析を行う。(1)スタートアップ企業の立地決定は初期費用の大きさと期待される収益性の大きさにより決定される。(2)初期費用の大きさと期待される収益性の大きさは、立地する地域の産業集積の規模とタイプ、および地域内の金融へアクセスと域外の知識へのアクセスにより決定される。命題(2)について、全国データを用いた推定結果では、産業集積の規模とタイプおよび他地域からの知識導入、地域内金融アクセスといった地域要因がスタートアップ企業に期待される収益性向上と初期費用抑制に作用するとの結果が得られたが、九州のデータでは、産業集積の規模と地域外からの知識導入が収益性を向上させる効果と競争的な市場環境が初期費用を抑制する効果だけが有意に検出された。命題(1) については、工業化の中心である北部九州で収益性がスタートアップの立地を引き付けているが、福岡市周辺で競争的な市場環境が初期費用を抑制し立地要因を高めているのに対して、自動車産業が集積する北九州市周辺では相対的に初期費用が大きいことがわかった。中心地市場から離れている九州では収益性を拡大する政策よりも初期費用を抑制する政策を実施することがスタートアップを促進することが示唆される。