政策保有社外役員工作と企業価値

執筆者 胥 鵬 (法政大学)/高橋 秀朋 (法政大学)/田中 亘 (東京大学)
発行日/NO. 2019年9月  19-J-050
研究プロジェクト 企業統治分析のフロンティア
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概要

2015年に日本版コーポレートガバナンス・コードによって、上場企業は2人以上の社外取締役を置くか、置かなければその理由を説明するかが求められて以来、2人以上の社外取締役がいる企業の割合は、2018年にかけてほぼ100%に急増している。本論文は、株式持合や政策保有と関連して、社外監査役や社外取締役のうち政策保有先や取引先出身者が半数以上を占める政策保有社外役員工作がどのように行われるかを解明する。2018年9月時点で、政策保有社外役員工作企業の割合は20%、会社数は348社である。2011年-2018年の東証一部上場企業役員データを用いて分析した結果、企業価値が低いほど、政策保有割合が高いほど、外国人機関投資家の圧力が弱いほど、社外役員のうち政策保有先等の出身者が半数以上占める傾向にある。このことから、政策保有社外役員工作は社外役員を義務づける法規制を骨抜きにして敵対的買収策としての持合や政策保有を補強するものだといえよう。また、これは、独立社外取締役を恐れているあまりに経済界が長年社外取締役を義務づける法改定に反対していた事実とも整合する。内生性を考慮しても、政策保有社外役員工作の企業価値を損ねる効果は統計的に有意であり、政策保有社外役員工作企業の株価が7%〜13%低い。今まで日本企業の社外取締役の有無や人数の決定及び効果が分析されてきたが、社外監査役や社外取締役の普及・増加と共に社外役員と会社との関係、とりわけ、社外役員の独立性が問われることは必至である。われわれの分析は、日本のコーポレートガバナンスのありかたに新たな光を当てることになる。2018年6月改訂コーポレートガバナンス・コードは、より踏み込んで政策保有株の縮減に関する方針や考え方の開示、政策保有株の議決権行使基準の策定とその開示を求める。本論文の政策含意から、今後の改定は社外監査役や社外取締役の政策保有との関係などに関する広い開示を求めるべきである。