日本の雇用システムの歴史的変遷―内部労働市場の形成と拡大と縮小―

執筆者 中林 真幸 (東京大学)/森本 真世 (東京大学)
発行日/NO. 2019年6月  19-J-036
研究プロジェクト 労働市場制度改革
ダウンロード/関連リンク

概要

本稿は、産業革命期から現在に至る長期の経済発展のなかに雇用システムを位置づけることを目的とする。過去1世紀あまりの経済成長に対する労働投入の貢献は、農業部門から非農業部門への労働移動、教育の普及と向上による一般的な技能の蓄積、そして産業特殊的もしくは企業特殊的な技能の蓄積に分解することができる。また、欧米に比べて極めて早い時期に1889年大日本帝国憲法と1896年民法によって「移動の自由」を確立した日本においては、大陸ヨーロッパ的な、労働者の移動の自由を制限することによって、雇用者に産業特殊的な技能への投資を促す法制度は存在せず、非常に高い流動性が1920年代までにおける労働市場の共通の特徴であった。そこでは、技能蓄積の制度は二通りあった。ひとつは、製糸業に見られた雇用者の私的なカルテルであり、もうひとつは鉱山業に見られた間接管理である。いずれも1920年代に解体に向かい、技能蓄積の場は、特定企業が長期勤続を促す制度、すなわち内部労働市場に収束し、1980年代には現業労働者にも新卒一斉採用が普及した。こうした日本的な雇用システムは雇用創出の均霑を妨げる桎梏ともなる。急激な技術変化に対応するには、数年間かけて自らが没入する内部労働市場を選択する制度に戻る方が望ましいかもしれない。