長時間労働是正と人的資本投資との関係

執筆者 黒田 祥子 (早稲田大学)/山本 勲 (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2019年4月  19-J-022
研究プロジェクト 働き方改革と健康経営に関する研究
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概要

本稿では、働き方改革による長時間労働是正が、労働者の人的資本投資にどのような影響をもたらすかについて分析した。具体的には、1970年代から現代までの長期データを用いて日本の労働者の人的資本投資時間の推移を観察するとともに、2016年以降のパネルデータを利用して、働き方改革の推進により、労働時間の減少によって生じた余暇時間の増加を人々は自己研鑽という投資の時間に振り向けているのかを検証した。分析の結果、まず、労働者の時間配分を長期にわたって観察したところ、自己研鑽に費やす時間は趨勢的に減少傾向にあり、特に2006年から2016年にかけての10年間に大幅に減少していることが確認された。自己研鑽に時間を費やす人が減少した要因としては、若年・高学歴・高所得といった人ほど自己研鑽をするというこれまでの傾向が近年になって弱まっていることや、「職場での時間外」に自己研鑽を行う人が特に2011年から2016年にかけて大幅に減少していることが関係していることが示唆された。次に、働き方改革の影響については、2016年以降に残業手続きが厳しくなったと回答している人が全体の3割程度存在し、職場での残業手続きが厳格になるほど労働時間が減少していることが観察された。この点と自己研鑽との関係についてみると、職場での残業手続きが厳しくなった人ほど自己研鑽の時間を増やしている傾向は認められたが、その時間数は年間で5時間未満程度と短いことがわかった。また、働き方改革によって浮いた時間を僅かながら教育訓練投資に振り向けているのは相対的に年齢が高い40歳以上の層のみで、40歳未満の若年層は自己研鑽に時間を使っていないことも示唆された。最後に、働き方改革を推進して長時間労働是正に取り組んでいる職場ほど、企業内Off-JTの追加投資を行うという傾向は認められなかった。