転勤・異動と従業員のパフォーマンスの実証分析

執筆者 佐野 晋平 (千葉大学)/安井 健悟 (青山学院大学)/久米 功一 (東洋大学)/鶴 光太郎 (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2019年3月  19-J-020
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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概要

本稿では、転勤・異動・定年に関するウェブアンケートデータを分析して、転勤経験と賃金、昇進、スキル形成の関係を定量的に分析した。転勤経験の賃金へのプレミアムは観察されるが、異動によるプレミアムと差がない。転勤・異動経験ともに昇進確率を高め、転勤の係数は異動の係数と比べ大きい。ただし、属性を制御していくとその差は縮小していく傾向が観察される。転勤回数の多さは賃金や昇進確率を高めるが、賃金に関しては国内転勤回数ではなく海外転勤回数の多さが影響を与える。転勤は、賃金や昇進と関連する職業スキルと正の相関を持つものの、異動経験と比べ強い影響は観察されない。就業前の状況と転勤経験の関係を分析すると、中3時の成績、高校時代の遅刻欠席の少なさ、運動系・文化系のクラブを熱心に行っていた個人は転勤を経験する確率が高い。これらの就業前の状況は転勤による賃金などのプレミアムの一部を捉えている可能性がある一方で、転勤経験には就業前経験では捉えられない要因によって賃金や昇進などに影響を与えていることも確認された。主観的な指標と転勤経験の関係を分析したところ、転勤経験者は非経験者と比べ仕事満足度や適職感は高いが、幸福度は必ずしも高くない。転勤を断れない、具体的な施策がない場合に適職感、仕事満足度や幸福度は低くなるが、希望の可否を聴取するといった労使のコミュニケーション、家族の状況に配慮した多様な雇用形態を認めるなどの環境整備をすることで転勤による影響が緩和される可能性が示唆される。