安定性と柔軟性を兼ね備えた調整市場の制度設計:EUの調整市場統合からの論点整理

執筆者 東 愛子 (尚絅学院大学)
発行日/NO. 2018年4月  18-J-015
研究プロジェクト 電力システム改革における市場と政策の研究
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概要

EUでは広域の電力市場を構築し、再エネの変動に対応しうる柔軟性を持った電源を効率的に確保して安定供給を担保しようという動きが加速している。ただし、EU各国の電力市場制度を比較すると、各国はさまざまな異なる電力市場制度を運営しており、各制度の利点欠点を精査したうえで今度どのように統合を図るかが課題となる。そこで本研究では、特にEU各国の調整市場制度の違いを明らかにしながら、再生可能エネルギーの普及拡大を支える安定的で柔軟な電力システムの構築に重要と考える制度項目の比較評価を行った。

各国調整市場制度を精査した結果、以下の2つの観点から各国の市場制度を評価することができる。第1の観点は、調整市場の競争をどのように促しているかである。調整市場にデマンドレスポンスや小型蓄電池や再エネを含めた多様な電源が参加できれば、費用効率的に柔軟な電源を確保して安定供給を担保することができる。したがって調整市場の活性化は、調整力の調達を行うオークション制度の設計と密接に関わる課題である。第2の観点は、需給インバランスの発生を予防するための方策をどのように構築しているかである。前日市場や当日市場で市場参加者の取引が活性化すれば、スポット市場を通じて需給インバランスは解消されて安定供給に寄与する。このようなスポット市場の活性化は、スポット市場自体の制度設計はもちろん、調整市場におけるインバランス料金の設定方法も影響を与える。このように、スポット市場と調整電力市場双方で競争を促す制度設計を行うことが、再エネ拡大の下で安定的な電力システムを構築するうえで非常に重要である。