サードセクター組織の法人格の差異・商業化・専門化が雇用に与える影響:2014年度サードセクター調査に基づく基礎的分析

執筆者 仁平 典宏 (東京大学)
発行日/NO. 2018年3月  18-J-011
研究プロジェクト 官民関係の自由主義的改革とサードセクターの再構築に関する調査研究
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概要

本稿は、2014年度に実施された「日本におけるサードセクターの経営実態に関する調査」を使用し、サードセクターにおける雇用の規模と質およびその規定要因を概括的に捉えることを目的とするものである。はじめにその背景として、1990年度後半から進められた市民社会制度改革に着目する。この市民社会制度改革には、主務官庁制を廃したNPO法人や新型の社団・財団法人の創設などの法人制度改革と、公共サービスの民営化と資金調達を円滑に進めるための準市場の整備という側面があるが、これらはサードセクターにおける雇用の諸相にどのような影響を与えているのだろうか。

本稿では市民社会制度改革がサードセクター組織にもたらした変化の方向性として、法人格の取得、商業化、専門化という3つの観点から整理し、それらを操作的に定義した上で、雇用に対する効果を分析した。主な知見は次のとおりである。第1に、法人格間の差異は大きく、全体として主務官庁制の法人群が雇用に対してプラスの効果が目立つ。一方でNPO法人の賃金水準は低く、法人格のない任意団体と同水準である。第2に、商業化に関して、事業収入の増加は雇用の量を増やす面がある一方、職員間の賃金格差や雇用の不安定さに結びついている恐れがある。第3に、商業化に関して、職員研修は職員の賃金水準に対して両義的な効果を持つ。