ノンテクニカルサマリー

サードセクター組織の法人格の差異・商業化・専門化が雇用に与える影響:2014年度サードセクター調査に基づく基礎的分析

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

特定研究 (第四期:2016〜2019年度)
「官民関係の自由主義的改革とサードセクターの再構築に関する調査研究」プロジェクト

本稿は、2014年度に実施された「日本におけるサードセクターの経営実態に関する調査」を使用し、サードセクターにおける雇用の規模と質およびその規定要因を概括的に捉えることを目的とするものである。サードセクター組織の雇用に対しては、1990年度後半から進められた一連の市民社会制度改革の影響が大きかったと考えられ、本稿でもこの効果に着目する。市民社会制度改革には、主務官庁制を廃したNPO法人や新型の社団・財団法人の創設などの法人制度改革と、公共サービスの民営化と資金調達を円滑に進めるための準市場の整備という2つの側面がある。そしてこの一連の改革は、サードセクター組織に「転換」「商業化」「専門化」という変化を迫ることになった。「転換」とは、非営利組織が市場や準市場に適応するように法人格や性格を変更することを指す。本稿では、法人格なき任意団体と比較して各法人格を持つことの効果を検証する。「商業化」とは、非営利組織が物やサービスの販売などの事業収入に依存するようになることを指す。「専門化」とは、エキスパートが役割を担うようになることを意味し、スタッフの専門性を高めることや、ボランティアではなく有給スタッフが業務を行うことなどがここに含まれる。

これら3つの変化が、サードセクター組織の雇用の量及び質にいかなる影響を与えたのかということが、本稿のリサーチクエスチョンである。図は分析モデルと使用する指標を表している。

図

主要な知見は以下のとおりである。

「転換」に関しては、直接検証できたわけではないが、法人類型の差異に注目してそれぞれの特徴を明らかにした。4つのグループ(主務官庁制、脱主務官庁制、NPO法人、一般社団法人)の中で最も雇用の量・質ともに充実していたのが主務官庁制の公益法人群だった。これらは市民社会をめぐる言説では行政に対する自律性が小さい存在としてしばしば批判の対象になってきたが、雇用という観点で見ると重要な役割を果たしている。脱主務官庁制の団体の中では、新型社団/財団法人群が、賃金水準の相対的な高さや今後の雇用拡大に関する意欲などにおいて肯定的な側面が目立った。またNPO法人群についても、近年も採用を積極的に行ってきた点では評価できる。これらは市民社会制度改革のポジティブな側面だと考えられる。一方で、NPO法人に関しては、常勤職員年収の最低額が任意団体に比べても有意に低く、いわゆる「やりがい搾取」のような働き方が広がっていないか懸念される結果となった。

「商業化」については、総収入に占める稼得所得の比率を指標として分析した。その中で、多くの項目で正の効果を示したのが行政稼得収入比率であった。これは、行政関連の委託事業や社会サービス事業を意味し、公共サービスの準市場化がサードセクター組織の雇用促進にプラスの効果を持ったことが示唆された。他方で、常勤の年収の最低額に対しては下げる効果をもち、職員間の年収格差を広げている恐れも示された。さらに職員数の将来予測にも負の効果を示し、長期的に安定した雇用には結びついていない可能性がある。行政からの委託事業が低賃金で不安定な就労をサードセクターに広げることになっていないか分析を深めていく必要がある。

「専門化」については、ボランティアの活用が有給職員の数や賃金水準の抑制に必ずしもつながっていないことを明らかにした。むしろ、無償ボランティアを多く活用するために、非常勤職員を増員させるというベクトルも見いだせた。職員研修に関しては、中核的な職員の賃金を押し上げる一方、周辺的な職員の賃金を抑制している可能性が見られた。サードセクター組織の中では、現在、ファンドレイジングなどの研修が盛んに行われているが、それが単純に賃金の底上げにつながるわけではないことが、今回の結果から示唆される。研修内容の向上や職員に幅広く研修機会を提供するなどの改善を図る必要があると考えられる。