貿易協定を通じた国有企業規制-「商業的考慮」の概念の展開-

執筆者 関根 豪政 (名古屋商科大学)
発行日/NO. 2017年11月  17-J-069
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第III期)
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概要

関税及び貿易に関する一般協定(GATT)は、加盟国自身ではなく、その加盟国の国有企業(国家貿易企業)が国際的な貿易活動を阻害することを防止するための規律として第17条を設け、国有企業に「商業的考慮(commercial considerations)」に従った行動を要請してきた。そして、当該規定は長年、GATTおよび世界貿易機関(WTO)における国有企業規律の中心的な条項として位置づけられてきた。その一方で、当該規定に対しては行動規制としての不十分性が指摘されることが多く、また、実際の運用実績も芳しくないという状況にあった。

そのような背景を受け、近年にWTOに加盟した国の加盟文書や、締結数が増えている自由貿易協定(FTA)においては、GATT第17条の基本構造に依拠しつつも、その内容を実質的に変更するWTOプラス規定を創設する試みが見られるようになっている。そこで本稿では、各加盟文書、米国およびEUが締結したFTA、そして環太平洋パートナーシップ(TPP)協定を中心に分析することにより、貿易協定における国有企業規律がどのように発展しているかについて分析を加える。これらにおけるGATT第17条からの最大の変更点は、商業的考慮概念の無差別原則からの独立と、その適用範囲の拡大にあるといえよう。