執筆者 | 武田 邦宣 (大阪大学) |
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発行日/NO. | 2015年11月 15-J-058 |
研究プロジェクト | 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第II期) |
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概要
2015年4月、欧州委員会は、ロシアの資源国有企業であるガスプロムに対して、市場支配的地位の濫用を理由とする異議告知書を送付した。委員会が問題にするのは、仕向地条項、石油連動価格制といった天然ガスの伝統的な取引内容である。委員会は、本件を、近年における最も重要な競争法違反事件と明言する。他方、ロシアは本件を政治的理由に基づく規制として強く反発する。本稿は、本件にいたるEUの対外エネルギー政策の展開を整理した上で、まず本件が、域内市場改革の不十分さにより市場統合から取り残された東欧・中欧諸国が、EU法上の新しい指導原理である"連帯"を根拠に措置を求めた事例であることを明らかにする。そして、しばしば本件の背景としてEUの"市場"とロシアの"国家"との対立が指摘されるが、(1)パイプライン投資への積極的な公的関与、および(2)競争法規制における広い濫用概念から、必ずしもそのような2項対立で論じることができないと評価する。パイプライン投資が関係特殊的投資である以上、競争法を利用した料金引き下げの要請は機会主義的な規制であり、本件も、純粋な市場支配力規制からは正当化されない可能性があるとする。