資源国有企業に対する競争法的規律:ガスプロム事件

執筆者 武田 邦宣 (大阪大学)
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第II期)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム (第三期:2011~2015年度)
「現代国際通商・投資システムの総合的研究(第II期)」プロジェクト

ガスプロム事件は、域内市場改革の不十分さにより市場の統合から取り残された東欧・中欧諸国が、EU法上の新しい指導原理である「連帯」を根拠に措置を求めた事件である。事件の背景には、国際的なエネルギー市場の拡大と共に、(1)域内エネルギー政策の決定権限が加盟国からEUへと移り、(2)対外エネルギー政策が包摂、対話、対立へと変化したとの事情がある。

同過程において、(3)競争法は、当初はナショナルチャンピオン(域内事業者)に対して自由化を迫る道具として機能してきたが((1)の道具)、本件では域外事業者に対して自由化を迫る道具として機能している((2)の道具)。(1)ないし(3)の関係を整理すれば、下図のようになる。

本件については、しばしばEUの「市場」とロシアの「国家」との対立が指摘される。しかし、本件も、(1)ないし(3)の関係に見られる道具主義的な競争法の利用がなされた事例と考えることができる。そして、このような競争法の利用は、将来のパイプライン投資へのディスインセンティブといった副作用を伴い、また対抗立法といった激しい国家間対立を生む。本件には、投資インセンティブの確保などの合理を有した伝統的取引内容(フローニンゲンモデル)を巡る「国家」と「市場」との対立、また競争法を武器とした「国家」と「国家」との対立といった側面も、存在する。

図
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*ECT: エネルギー憲章条約