取引関係のオープン化が日本の自動車部品産業の生産性に与えた影響の分析

執筆者 池内 健太  (科学技術・学術政策研究所) /深尾 京司  (ファカルティフェロー) /郷古 浩道  ((株)豊田中央研究所) /金 榮愨  (専修大学) /権 赫旭  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2015年4月  15-J-017
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
ダウンロード/関連リンク

概要

自動車産業では、多くの場合、取引関係のある完成車メーカーと部品メーカーとの間に、部品の仕様などをすり合わせるための密接な関係がある。一方で、近年、技術・取引関係の両面において、自動車産業には大きな変化が見られることが先行研究でしばしば指摘されている。そこで本論文では、国内の自動車完成車メーカーと部品メーカーとの取引部品や財務情報などの時系列データを用いて、自動車産業における取引関係の変化とその自動車部品メーカーの行動・パフォーマンスへの影響について分析する。主な分析結果は以下の3点である。まず第1に、日本の自動車産業では取引関係のオープン化が進展しており、同時に部品メーカーのうち、2社以上の多くの完成車メーカーに部品を納入している企業と1社のみと取引を行っている企業との間の生産性格差が拡大していることがわかった。第2に、部品メーカーの費用関数を推計することによって、納入先完成車メーカーの数が増えるほど生産効率が低下する傾向があるが、そのような納入先完成車メーカー数の生産効率への負の効果は時間を通じて弱まっていることが明らかとなった。第3に、多くの完成車メーカーと取引関係を持つ部品メーカーとそうでない部品メーカーの違いを分析したところ、企業規模や外資比率といった構造的な要因のみでなく、R&D活動への取り組みや輸出比率などの企業行動、さらには生産性や利益率、生存確率などの経営成果に統計的に有意な違いが見られることもわかった。これらの分析結果は、モジュラー化や標準化、共通化などの技術的変化の進展により、部品間の「すり合わせ」の重要性が低下したことが、取引関係のオープン化をもたらし、さらにはオープン化に移行した企業とそうでない企業との格差が拡大した可能性を示している。