世界金融危機時における輸出急減と金融ショックの関係:「企業活動基本調査」を用いた実証分析

執筆者 内野 泰助  (リサーチアソシエイト)
発行日/NO. 2014年11月  14-J-053
研究プロジェクト 輸出と日本経済:2000年代の経験をどう理解するか?
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概要

世界金融危機時に日本は輸出の急減を経験したが、その原因の1つとして、金融危機に伴う貿易信用の収縮(クレジット・クランチ)が指摘されている。この仮説に基づき、本研究は経済産業省「企業活動基本調査」の個票データに、企業の取引金融機関に関する情報を統合した企業―銀行マッチデータを作成し、日本が経験した輸出急減が取引金融機関へのショックと関連しているかを検証する。本研究の分析の結果は、次の通りである。第1に、世界金融危機時の日本の輸出急減は、すでに輸出をしている企業、とりわけ上場企業の輸出額の変化(インテンシブ・マージン)によって大部分が説明されことが分かった。第2に、取引金融機関の経営健全性が相対的に悪い企業において、輸出の伸び率が有意に低く、その程度は世界金融危機時において強まっていたことが明らかになった。しかし、取引金融機関の要因が日本全体の輸出額に与えた定量的効果を求めると、それは大きなインパクトを持たないことが明らかとなった。これらの結果は、貿易信用の収縮が日本全体の輸出急減に与えた影響は限定的であったことを示唆している。