企業における従業員のメンタルヘルスの状況と企業業績-企業パネルデータを用いた検証-

執筆者 黒田 祥子  (早稲田大学) /山本 勲  (慶應義塾大学)
発行日/NO. 2014年4月  14-J-021
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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概要

本稿では、企業パネルデータを用いて、企業における従業員のメンタルヘルスの状況を明らかにするとともに、メンタルヘルスの不調を理由に休職する従業員がどのような要因で増加しやすいのか、また、従業員のメンタルヘルスの不調によって企業業績が悪化することはあるのか、といった点を検証する。分析の結果、まず、メンタルヘルスの状況や施策の導入状況をみると、従業員300-999人規模や情報通信業、週労働時間が長い企業でメンタルヘルスの不調がみられることや、産業保健スタッフの雇用やストレス状況の把握など高いコストが予想されるメンタルヘルス施策の導入率は相対的に低い傾向にあることがわかった。次に、メンタルヘルス休職者比率の規定要因を検証すると、時期によって結果が異なるものの、休職者比率は長時間労働によって高くなる一方で、フレックスタイム制度やWLB推進組織の設置によって低くなる可能性が一部でみられた。また、メンタルヘルス施策については、休職者比率を低める大きな効果はみられなかったものの、衛生委員会などでのメンタル対策審議やストレス状況などのアンケート調査、職場環境などの評価および改善など、個別施策によってはメンタルヘルス対策として有効なものもあった。最後に、メンタルヘルスの不調が企業業績に与える影響を検証したところ、メンタルヘルス休職者比率は2年程度のラグを伴って売上高利益率に負の影響を与える可能性が示された。メンタルヘルスの休職者比率は労働慣行や職場管理の悪さの代理指標あるいは先行指標になっていると解釈すれば、メンタルヘルスの問題が企業経営にとって無視できないものとなっているといえる。