執筆者 |
小畑 郁 (名古屋大学) |
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発行日/NO. | 2014年1月 14-J-005 |
研究プロジェクト | 国際投資法の現代的課題 |
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概要
国際投資協定の締結と運用に際しては、従来の図式、すなわち投資家とそれに与する国家と抵抗する国家という図式は相当程度崩れ、アクター間の微妙なトライアングル関係が形成されてきていると考えられる。こうした状況の中で、投資家-国家間紛争処理手続を一般的に規定する国際投資協定においても、その利用のみならず国家間請求それ自体を考察する必要性が増している。
投資家本国が請求国となる場合、個別投資家のこうむった損害の賠償を主張するならば、それは、伝統的国際法上の外交的保護の行使にほかならず、外交的保護行使のための手続的要件を満たす必要があると考えられる。もっともそれは必ずしも十分意識されておらず、実務では混乱が観察される。他方、国際投資協定上は、個別投資家の利益に還元されない資本輸出国自身の権利を主張する、条約実施のための請求が考えられるが、これを主張する仲裁裁判事例は発見できず、むしろその過程での解釈が、跳ね返ってくるのを警戒しているとも考えられる。
むしろ今後より頻繁に生ずるかもしれないのが、投資受入国の側からの請求であり、これを契機として、国際投資協定の解釈についての合意を締約国間で形成しようとする動きである。この場合、国家間紛争処理は、投資家-国家紛争処理手続の存在とは機能を異にする形で、あるいはそれに掣肘を加えるためにすら用いられる可能性がある。