最低賃金と社会保障の一体的改革における理論的課題―イギリスの最低賃金と給付つき税額控除、ユニバーサル・クレジットからの示唆―

執筆者 神吉 知郁子  (ブリティッシュ・コロンビア大学)
発行日/NO. 2013年5月  13-J-028
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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概要

日本では従来、稼働年齢世帯については「労働」か「社会保障」かのどちらかで生活を支えるという二者択一関係が前提とされてきた。しかし、非正規労働者の増加につれて、両者のギャップを埋める政策が必要になっている。最低賃金については、セーフティネットとしての役割の限界を認めた上で、(1)役割の再考と、(2)社会保障制度との有効な連携のあり方を探ることが喫緊の課題である。本稿ではまず、(1)の課題を考察するため、イギリスが、1993年に産業別の最低賃金制度であった賃金審議会制度を廃止してから、5年後に全国最低賃金制度の導入に踏み切った理論的背景と制度の特徴を検討する。さらに、(2)の課題を考察するため、最低賃金制度と一体となって機能する、給付つき税額控除制度との関係を検討する。この検討によって、両者の一体的改革には、社会的排除と、社会保障費用の財政圧迫という2つの問題を同時に解決する処方箋としての「就労」が鍵となっていることを示す。そして、最新の制度改革のなかで、稼働年齢世帯への社会保障給付がユニバーサル・クレジット制度に統合され、義務と給付の対価性がますます強調されていることを紹介する。最後に、これらの制度の理論的背景や特徴をふまえて、日本の制度改革に与える示唆をまとめる。