執筆者 |
伊藤 一頼 (静岡県立大学) |
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発行日/NO. | 2013年5月 13-J-025 |
研究プロジェクト | 現代国際通商システムの総合的研究 |
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概要
国家間で国際投資保護協定を締結し、相手国からの外国投資に対して相互に法的な保護を与える仕組みが、近年急速に発達している。他方、こうした投資保護メカニズムの発達が、投資受入国の主権的な規制権限を過度に制約することへの懸念も、次第に強まってきた。とりわけ、自国の文化に影響を及ぼす経済活動については、従来から各国が多様な規制を講じてきたところであるが、こうした文化政策上の規制裁量が投資協定によりどの程度制約されるのか、逆に外国投資家はどこまで保護を受けられるのかが、政府および企業にとって重要な問題となろう。
本稿では、まず、投資協定や経済連携協定において、文化産業ないし文化多様性に関わる分野がどのように扱われてきたかを分析する。特に、文化分野を投資保護ルールの例外として明記する例に注目し、かかる例外条項の諸類型、およびその射程の解釈のあり方について検討を加える。
次に、そうした例外条項がない投資協定において、文化政策上の公益的な規制関心が、投資保護ルールの解釈の中でどこまで考慮されるかを、過去の仲裁判断例に基づいて分析する。特に、(i)無差別原則については、文化政策上の正当な区別に基づく取扱いであれば、差別とならない余地があること、(ii)収用の禁止については、間接収用の判断基準として用いられる比例性原則によれば、公益目的と規制手段とのバランスが適切であれば収用には当たらないと判断される余地があること、などが重要な結論である。
以上の分析に基づき、投資協定上の義務の下で、投資受入国政府が文化政策上の規制を適法に実施しうるための諸条件を結論として提示する。