最低賃金と労働者の「やる気」―経済実験によるアプローチ―

執筆者 森 知晴  (大阪大学 / 日本学術振興会)
発行日/NO. 2013年3月  13-J-012
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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概要

本論文では、最低賃金が労働者の努力水準(やる気)に与える影響を、実験室における経済実験を用いて検証している。Gift-exchange理論の下では、企業は高い賃金を支払えば労働者は高い努力を行い、賃金が低ければ努力水準は低くなる。最低賃金は、企業が払う賃金が高いか低いかを判断する際に影響を与える。最低賃金付近の賃金は一般に悪い賃金と見なされる場合が多い。しかし、最低賃金がなければその賃金は良い賃金と見なされる可能性がある。

また、最低賃金の存在は失業にも影響を与える。失業が多くなれば、就業することの価値が高くなり、働いている人の努力水準は高くなるだろう。経済実験の結果は以下の2点を明らかにしている。第1に、もし失業がなく全ての労働者が働いている場合は、最低賃金は(同じ賃金に対する)努力水準を下げる。これは、最低賃金が存在すると、基準となる賃金が高くなり、同じ努力をさせるにはより高い賃金が必要となることが理由と考えられる。第2に、労働者が企業に雇用を断られ失業する可能性がある場合は、最低賃金は努力水準を変えない、もしくは上げる効果がある。この結果は、失業がある場合は、最低賃金があったとしても失業という最も悪い状況は変わらないため、基準が高くなる効果がなくなることを示している。加えて、最低賃金により失業率が上昇することが、努力水準に正の影響を与えている可能性がある。