執筆者 |
中田 大悟 (研究員) |
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発行日/NO. | 2012年8月 12-J-028 |
研究プロジェクト | 社会保障問題の包括的解決をめざして:高齢化の新しい経済学 |
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概要
本稿では、JSTARの1st waveと2nd waveの二期間のデータを用いて、税・社会保障政策が日本の中高齢者の所得格差、貧困にどの程度の改善効果を与えているかを格差指標、貧困指標、さらにはカーネル密度推定を利用して定量的に把握した上で、どのような属性の世帯が相対的貧困に陥っているのか、また、中高齢者はそれぞれの年金給付水準の下で、どのような労働供給(自助努力)を行っているのか、という点についてパネル・プロビット分析を行った。
その結果、日本の税・社会保障の再分配機能は、65歳以上の年金受給世代の世帯でしか機能しておらず、現役世代においては、ほとんど機能していないか、もしくは、指標によっては格差が悪化している可能性があることが確認された。また、年金の給付は相当程度の防貧機能を果たしているものの、中高齢者の自助(労働)よりも効果は若干弱いこと、手段的日常動作能力の悪化が貧困転落の要因になっているということも示された。さらには、年金給付がもつ労働供給抑制効果は世帯における年金給付額が十分に高い中高齢者にのみ観察されること、中高齢者の精神面、肉体面の双方における健康状態が労働参加決定に有意な影響を及ぼすこと、現役時代最終時期(54歳時点)の就業経験の有無が、高齢時の労働供給の有無に強い影響を与えること、などが示された。
本稿の結果は、社会保障給付が、高齢者自身の自助努力、すなわち就業行動と調和するように設計される必要があることを示唆するとともに、中高齢者の自助努力を支えるために、中高齢者のQOLを高めるような施策が重要であることを示している。