特化型と都市化型集積の生産性への影響:事業所データによる実証分析

執筆者 小西 葉子  (研究員) /齊藤 有希子  (富士通総研経済研究所)
発行日/NO. 2012年3月  12-J-006
研究プロジェクト 経済変動の需要要因と供給要因への分解:理論と実証分析
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概要

本研究は、工業統計調査を利用して製造業の事業所を対象に集積が生産性に与える効果を測定することを目的とした。その際、行政単位で集計された集積指標でなく、事業所ごとに異なる距離ベースの集積指標を提案した。われわれの指標は、同一行政地域内の集積密度の違いを反映し、また行政単位で区切ることによって起こる空間相関などのバイアスを回避することを実現した。さらに、JSICの大分類から細分類の情報を用いて指標を作ることにより、都市化型、特化型の2種類の集積指標を作成した。これらの指標を用いて、産業特化と都市化の両集積現象が労働生産性と、TFPに対しどのようなインパクトを持つかを計測した。分析結果から労働生産性に対する両集積指標の係数の関係により、都市化型と特化型には正の相関があることが確認された。また、30人以上の事業所に対してTFPとの関係を観察したところ、都市化型の集積は生産性を引き上げる効果が観察されたものの、産業の特化はほとんどの産業で効果がなく、いくつかでは深化することにより負のインパクトがあるという結果となった。また特化型も都市化型も生産性に対してプラスの効果が観察された産業は衰退産業に属し、成長産業の一部ではいずれの集積効果も観察されなかった。これらの結果は、有効なクラスター政策の対象となる事業所の規模や産業が存在することを示唆している。