製造事業所の規模分布の変化-産業構造と企業ダイナミクスの視点による分析

執筆者 後藤 康雄  (上席研究員)
発行日/NO. 2012年3月  12-J-005
研究プロジェクト 金融の安定性と経済構造
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概要

本稿は、内外の製造事業所データを用いて、企業規模分布の視点から小規模事業所のウエイト変化とその要因を分析するものである。長期時系列の国際比較では、他の先進国の小規模事業所比率が70年代頃を境に上昇に転じているのに対し、わが国は低下に向かっている。産業構造の視点をまじえた寄与度分解を行うと、これはわが国における業種構成の変化と各業種内の小規模事業所の減少によるものである。業種構成の変化には、繊維業など中小比率の高い中小企業性業種の減退が寄与している。小規模階層の減少については、従業員数4~9人の零細規模の減少が顕著である。これを退出、参入、成長といった企業ダイナミクスの視点からみると、退出に比べ参入が少なくなっている。この間、退出とともに規模分布構造を変化させ得る成長要因は、分布を小規模方向にシフトさせるよう働いており、他国に関する研究とは異なる姿となっている。小規模事業所比率を低下させている業種構成の変化は、さまざまな環境変化への対応と理解される一方、新規参入の低迷は、産業の活力を低下させかねない。中小企業をめぐる政策は、小規模階層のウエイト変化の背景を把握しながら進めていく必要がある。