ノンテクニカルサマリー

製造事業所の規模分布の変化-産業構造と企業ダイナミクスの視点による分析

執筆者 後藤 康雄 (上席研究員)
研究プロジェクト 金融の安定性と経済構造
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

隣接基礎研究領域A (第二期:2006~2010年度)
「金融の安定性と経済構造」プロジェクト

本稿は、内外の製造事業所データを用いて、企業規模分布の視点から小規模事業所のウエイト変化とその要因を分析するものである。長期時系列の国際比較では、他の先進国の小規模事業所比率が70年代頃を境に上昇に転じているのに対し、わが国は低下に向かうという逆のトレンドとなっている。

産業構造の視点をまじえた寄与度分解を行うと、これは、(i)わが国における業種構成の変化と(ii)各業種内の小規模事業所の減少によるものであることが分かる。前者の業種構成の変化については、繊維業など中小比率の高い中小企業性業種の減退が寄与しており、経営環境の変化を背景に、わが国産業界は、英米などと比べても構造変化の必要性に迫られてきた状況が窺える。特に本分析のサンプル期間を考えると、プラザ合意(1985年)以降の急激な円高が、強く影響を及ぼした可能性が高い。わが国の産業界は、他の先進国に比べても、迅速に構造変化に対応したといえるかもしれない。

長期的な小規模事業所比率の低下のもう1つの要因である、各業種における小規模階層の減少については、大規模事業所が増えているのではなく、小規模事業所が減っていることによるものである。小規模事業所の中でも、特に従業員数4~9人の零細規模の減少が顕著である。これを退出、参入、成長といった企業ダイナミクスの視点からみると、4~9人階層においては、退出が増えているというよりも参入が少なくなっていることによってこの階層が減退している状況が看取される。

小規模事業所比率を低下させている業種構成の変化は、さまざまな環境変化への対応と理解される一方、新規参入の低迷は、産業の活力を低下させかねない。このように、結果として中小事業所を減らす方向に働く要因でも、両者の意味合いはまったく異なる。これらの視点は、中小企業政策などにおいて重要となろう。たとえば、中小企業を対象とした政策によって、中小階層が維持されたとしても、それが身を縮めての生き残りによるものであれば、日本経済の成長基盤の確保には必ずしもつながらないかもしれない。今後の中小企業をめぐる政策は、小規模階層のウエイトの変化がどのような要因によってもたらされているのかウォッチしつつ進めるとともに、政策効果に関する評価も、既存の中小企業の成長・減退による影響と参入・退出による影響を識別しつつ行っていくことが望まれる。

図表1:主要国の製造業における100人未満事業所の比率の推移
-Loveman and Sengenberger(1991)の前後延長

図表1:主要国の製造業における100人未満事業所の比率の推移
注1:実線部分はLoveman and Sengenberger(1991)、点線部分は筆者による延長。
注2:日本については、1948年以前は5人以上の事業所に限定されており、規模区分は職工数による(5人以上への限定は100人未満比率を実態よりも押し下げる方向に、職工数による規模区分は比率を押し上げる方向に働く)。1949年以降は5人未満事業所を含む。規模区分は、1949年は常用雇用者数、1950年以降は従業員数ベース。
注3:ドイツは、1985年までは旧西ドイツ、それより後は統合ドイツ。
注4:フランスについては延長できず。
出所:Loveman and Sengenberger(1991)、経済産業省「工業統計調査」、米国センサス局「Census of Manufactures」、イギリス統計局「Census of Production」、ドイツ統計局「Produzierendes Gewerbe」、イタリア中央統計局「Censimento generale dell'industria e dei servizi」のそれぞれ各年版より筆者作成。