WLB施策が効果的に機能する人事管理:職場生産性への影響に関する国際比較

執筆者 松原 光代  (東京大学)
発行日/NO. 2011年3月  11-J-031
研究プロジェクト ワーク・ライフ・バランス施策の国際比較と日本企業における課題の検討
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概要

本稿は、WLB施策が職場生産性にプラスに影響したとする企業の人事管理を日本と海外4カ国(イギリス、オランダ、スウェーデン、ドイツ)で比較し、わが国のWLB推進に向けた課題を人事管理の観点から明らかにすることを目的とする。その結果、以下のことが明らかになった。

第1に、海外4カ国のインセンティブ・システムは、職務遂行能力、個人の業績、職務の内容、組織の業績などがバランスよく配分された体系であるのに対し、日本企業では、給与や賞与に占める年齢、個人の業績の比重が他の項目に比べて高く偏りがあることが明らかになった。

第2に、海外4カ国では、正社員以外の社員(派遣労働者を含む)の人事権は職場が持つ傾向が強い一方、日本は正社員、正社員以外の社員のいずれも人事部が持つ企業が多い。こうした人事権を人事部に集中させることは、需要量の変化や職場環境の変化にタイムリーに対応することを阻害する危険がある。

第3に、イギリスやドイツの職場生産性が高い職場では、WLB関連制度の利用者が職場に出た場合、第1に職場要員数を勘案しながら業務量を調整し、その上で正社員の労働時間を調整したり、要員の異動・採用などで対処するなど、複数の対処法を用いていることが分かった。一方、日本では正社員の労働時間で調整する傾向が強い。

第4に、海外4カ国では女性の管理職比率が高い企業で、WLBの職場生産性への評価も高いことが分かった。つまり、ダイバシティ・マネジメントの推進とWLBの実現は両者が補完的な関係にあるといえ、先行研究の結果を確認する結果となった。

第5に、正社員と同じ仕事をする正社員以外の社員の時間当たりの賃金が正社員とほぼ同じとする企業では、従業員が自分の職場生産性(仕事効率、仕事意欲、組織貢献意識)を高く評価する傾向があることが明らかになった。

経済のグローバル化や労働力人口減少社会に到来に伴い、人事管理の在り方も、正社員だけでなく、より幅広く多様な人材を活用できるものへと再構築していく必要がある。