取引と特許共同出願の関係について

執筆者 井上 寛康  (大阪産業大学) /玉田 俊平太  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2011年3月  11-J-024
研究プロジェクト 多重ネットワーク分析指標を用いた新たな経済指標の検討
ダウンロード/関連リンク

概要

リーマンショック以降も経済の混乱は続いているが、とりわけ日本の経済は他国よりも回復が遅れている。日本では、選択と集中を合言葉に、基礎研究や多角化した事業を削ることによって厳しい経営環境に対応してきた。しかしそれは同時に、大企業単独でのイノベーションが困難になってきたことも意味する。そのため、今や複数の企業、あるいは大学・公的研究機関を巻き込んだオープンなイノベーション・ネットワークの構築が不可避なものとなってきている。

本研究では、企業間の取引(ニーズ)と特許の発生(シーズ)に着目し、現在の日本の企業間イノベーションシステムがどのように構築されているかを分析した。データとして100万の企業をノードとし、それらにおける取引と特許の共同出願によるリンクからなる多重ネットワークを分析した。分析に、産業連関表、ERGモデル、ベイジアンネットワークの3つを用いた。

産業連関表の分析から、取引金額よりも取引件数の方が共同出願により影響を与えているであろうことが推測された。続いてERGモデルに基づく分析から、企業間の取引は双方向になり、取引と特許の共同出願は同時に発生しやすいことがわかった。またこれより複雑な関係はあまり有意に発生しないこともわかった。最後にベイジアンネットワークに基づく分析から、企業間の取引関係が判明すれば、特許の共同出願と産業の種類は独立になることがわかった。