児童手当が家計消費に与えた影響

執筆者 宇南山 卓  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2011年3月  11-J-021
研究プロジェクト 少子高齢化と日本経済-経済成長・生産性・労働力・物価-
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概要

本稿では、児童手当が家計の消費にどのような影響を与えたかを分析した。ライフサイクル仮説に基づけば、児童手当は生涯所得を増加させることで消費を増加させるが、勤労所得など他の生涯所得と比べ絶対額は小さく、消費に与える影響は小さい。ここでは、家計調査の個票データを用いて、児童手当が消費に与えた影響を推計した。その結果、毎年消費されるのは児童手当の予想支給総額の1%から3%であり、統計的にもほとんど有意でなく、大部分の手当は貯蓄されていた。児童手当の受取金額が異なる世帯の家計資産を比較すると、受取額の差とほぼ同じ額の金融資産の残高の差が存在していた。これは、消費性向が低いという結果と整合的であり、児童手当の大部分が貯蓄されたことを示すもう1つの証拠となる。さらに、児童手当は消費の内訳についてもほとんど変化させていなかった。平均的な家計の消費行動には影響を与えていなかったが、流動性制約に直面していると考えられる世帯に限れば、消費を増加させる効果があった。年間収入が低くかつ資産の少ない家計では、児童手当の支給月に消費が増加しており、消費性向は75%前後となった。児童手当を、流動性制約に直面する世帯への支援と考えるのであれば、所得制限には一定の合理性があることが示された。