日本企業による特許・ノウハウライセンスの決定要因

執筆者 西村 淳一  (リサーチアシスタント / 一橋大学) /岡田 羊祐  (一橋大学)
発行日/NO. 2011年2月  11-J-012
研究プロジェクト 日本企業の研究開発の構造的特徴と今後の課題
ダウンロード/関連リンク

概要

特許・ノウハウの技術取引は、企業の境界や国境を越えたオープン・イノベーションを進める手段として急速にその重要性を高めつつある。この論文では、企業活動基本調査における国内・海外別、また特許・ノウハウ別の技術取引額データを利用して、日本企業のライセンス・インおよびライセンス・アウトの決定要因を考察する。本稿では、補完的資産の規模や知識の受容能力などで測られる「組織能力」(organizational capability)の影響をコントロールしつつ、とくに「利益逸失効果」(rent dissipation effect)の影響に注目した。利益逸失効果とは、ライセンサーの市場支配力が高いほど、ライセンスにともなうライセンシーの参入がもたらす競争圧力の増大によって利益が失われることをいう。したがって、市場支配力を有するライセンサーであるほど、競争企業へライセンスするインセンティブが小さくなると予想される。本稿では、国内および海外の市場支配力指標として国内市場シェアと海外輸出依存度を利用した。固定効果パネル分析を用いた推計結果によると、先行研究と同様に、組織能力が高まるほどライセンス・イン、ライセンス・アウトともに増大することが確認された。さらに、とくに特許取引については、国内・国外ともに技術取引における利益逸失効果が働いていることが示された。これは、市場競争圧力が高まるほど特許取引が活発になる傾向があることを示唆する。