新興国向け対外直接投資の意義~Firm Heterogeneity モデルによる考察~

執筆者 伊藤 公二  (上席研究員)
発行日/NO. 2010年8月  10-J-047
研究プロジェクト 「国際貿易と企業」研究
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概要

近年、我が国の製造業は、競争力が高い業種だけでなく、競争力が低いと思われる業種でも新興国市場に積極的に進出している。その際、対外直接投資(FDI)を通じた現地法人売上高の増加が、輸出の増加以上に顕著である。

本稿では、こうした現象を理解し、新興国向け対外直接投資の意義を考えるため、2生産要素、要素集約度の異なる2財で構成され、さらに各産業で生産性に関する企業の異質性(Firm Heterogeneity)を仮定した2国モデルを構築した上で、輸出の他にFDIが可能となった場合の産業別のFDIの動向、経済面への影響について、数値例を用いて分析した。

産業別のFDIの動向を見ると、相対的に豊富な生産要素を集約的に用いる産業だけでなく、希少な生産要素を集約的に用いる産業でも、生産性の高い企業はFDIを行うことが示された。

FDIが可能となると、輸出だけが可能な状態と比較して、いずれの産業でも企業間の競合が一層激しくなり、実質賃金や経済厚生は高まる一方、生産性の低い企業が退出し企業数は減少する。さらに、FDIは、輸出変動費が高い状態において、相対的に希少な生産要素を集約的に用いる産業の実質収入の低下を防ぐ可能性があることも示された。

※本稿の英語版ディスカッション・ペーパー:11-E-055