米国およびNAFTAにおけるWTO法の間接適用可能性―通商救済案件の分析を中心に―

執筆者 伊藤 一頼  (静岡県立大学)
発行日/NO. 2010年2月  10-J-019
研究プロジェクト 現代国際通商システムの総合的研究
ダウンロード/関連リンク

概要

本稿では、WTO加盟国の国内裁判所において私人が当該国政府の行為、特に補助金相殺やアンチダンピングといった通商救済措置の合法性を、WTO協定に依拠して争うことができるかを検討する。もっとも、WTO法を直接的に援用する「直接適用」はすでに多くの国で明確に否定されている。そこで本稿は、WTO法の内容を国内法令の解釈に取り込む「間接適用」の可能性に注目し、米国裁判所およびNAFTAパネルで扱われた通商救済案件の判例動向を分析した。

その結果、WTO法の間接適用が、実質的に直接適用と同様の効果を持ち、政府に重大な政策変更を強いる結果になるような場合では、裁判所は間接適用を認めないことがわかった。一方、政府自身がWTO法の履行に前向きな姿勢を見せている場合には、裁判所はそうした履行措置の妥当性をWTOの法解釈に照らして厳格に審査する可能性があることが明らかになった。それゆえ、私人としては、相手国に一定の履行意思が見られる場合には、その履行措置の妥当性を国内裁判手続においてWTOの法解釈を援用しながら争うことも有益であり、国内訴訟とWTOの紛争解決制度を状況に応じて使い分ければ、WTO協定の履行確保をより迅速かつ実効的に図ることが可能になると思われる。