企業統治分析のフロンティア

これまでの研究活動

2002年度は、「コーポレートガバナンスの国際的動向~収斂か多様性か~」というテーマで、政策シンポジウムを開催しました。1980年代に賞賛された日本のコーポレートガバナンスについて、制度面や実態面の双方において、今後どう変えていくのか、あるいは変えていくべきではないのかという問題について、多くの論争が繰り広げられていました。このシンポジウムでは、コーポレートガバナンス問題に大きな関心を持つ日本企業の経営者、欧米や東アジアの研究者の方々も交えて、実践面、理論面双方の観点からコーポレートガバナンスの国際的動向と今後について議論を行いました。

2003年度は、「法制度と経営の補完性に関する研究会」と題し、前年度に引き続き、日本のコーポーレートガバナンスに関する研究を行いました。この研究成果については、Oxford University Press から出版が予定されている"Corporate Governance in Japan: Institutional Change and Organizational Diversity(edited by Aoki, Jackson and Miyajima)"に所収される予定です。

2004年度は、これまでの研究成果をベースに、「多様化する日本のコーポレートガバナンス-特定のモデルへの収斂?-」を開催しました。また、コーポレートガバナンスの研究に並行して、急増するM&Aの決定要因とその経済的役割の分析を課題として、関係者からのヒアリングの実施、新たなデータベースの構築などにより、実証分析の準備を進めました。それを基に、宮島英昭ファカルティフェロー・蟻川靖浩ファカルティフェロー(当時)は、M&Aの決定要因に関する新たな実証研究を試み(蟻川・宮島 2006)、深尾京司ファカルティフェローを中心とするTFPを利用したM&Aの経済成果の実証分析、銀行の再編成の要因と経済効果の分析、M&Aと雇用調整、M&Aと事業再組織化のケーススタディ、およびGregory JACKSON客員研究員(当時)の国際比較研究などを統合して、日本のM&Aを主題とする宮島編『日本のM&A』(東洋経済新報社)の作成を進めました。同書の骨格はすでに確定し、現在編集作業を進めており、まもなく出版される予定です。

2005年度は、コーポレートガバナンス研究を推進するために、「コーポレートファイナンスとコーポレートガバナンス:日本と欧州の比較」というテーマで、Centre for Economic Policy Research (CEPR)とRIETIで、国際コンファランスを共催しました。この政策シンポジウムは、Jenny Corbett( Australian National University, University of Oxford, and CEPR)と、宮島ファカルティフェローが中心となって組織され、欧州や米国から、第一線に立つ金融、コーポレートガバナンスの研究者の参加を募り、日欧を中心にコーポレートガバナンスをめぐるトピックを議論する機会を提供しました。また、コンファランスでは、日欧の学会や経済界において、コーポレートガバナンスに関心をもつ実務家やアカデミクスによるラウンドテーブルを持ち、コーポレートガバナンスコードの世界的統合、M&Aの実態とその法・制度的対応を検討しました。
また、M&Aに関する研究は、東洋経済新報社より出版予定の宮島編『日本のM&A』に向けて、研究の深化と発展を進めました。

これまでの政策シンポジウム

 「コーポレートガバナンスの国際的動向~収斂か多様性か~」

 「多様化する日本のコーポレートガバナンス-特定のモデルへの収斂?-」

  • 日時:2004年10月20日(水) 9:00-18:00
  • 会場:国際連合大学エリザベスローズホール(東京都渋谷区)

 「コーポレートファイナンスとコーポレートガバナンス:日本と欧州の比較」

  • 日時:2005年9月13日(火)
  • 会場:経団連会館 パールルーム(1001号室)

  • 日時:2005年9月14日(水)
  • 会場:経団連会館 国際会議場(東京都千代田区大手町1-9-4)

これまでのプロジェクトに関連するRIETIディスカッションペーパー

 「親子会社間の多面的関係と子会社ガバナンス」

  • [PDF:244KB]
  • 伊藤秀史(RIETIファカルティフェロー)・菊谷達弥・林田 修
  • 2003年03月 03-J-005

 「Cross Shareholding and Initiative Effects」

  • [PDF:484KB]
  • ARIKAWA Yasuhiro(RIETI Faculty Fellow)・KATO Atsushi
  • March 2004 04-E-017

 「Corporate Governance and Employees in Germany: Changing Linkages, Complementarities, and Tensions」

  • [PDF:308KB]
  • Gregory JACKSON(RIETI Visiting Fellow)・Martin HOPNER・Antje KURDELBUSCH
  • February 2004 04-E-008

 「企業債務リストラにおける私的整理と法的整理の選択」

  • [PDF:472KB]
  • 胥 鵬(RIETIファカルティフェロー)
  • 2005年03月 05-J-012
  • [概要]1990年代後半から、銀行主導の私的整理が減少し、会社更生法や民事再生法等による法的整理が急増している。本稿は1997年1月~2003年12月の間に整理を行なった会社の整理直前期財務データを用いて、私的整理と法的整理の選択に対する債務構成の効果を分析した。結果、(1)特別管理下の長銀および新生銀行の融資残高比率、負債に占める社債残高比率が高いほど私的整理よりも法的整理が選ばれる可能性が強い、(2)無担保融資割合は私的整理企業の方が法的整理企業より有意に高い、(3)筆頭銀行融資割合の高さが私的整理の可能性を高めること、が示された。

 「Relationship Banking in post Bubble Japan: Co-existence of soft-and hard budget constraint」

  • [PDF:256KB]
  • ARIKAWA Yasuhiro(RIETI Faculty Fellow)・MIYAJIMA Hideaki(RIETI Faculty Fellow)
  • March 2005 05-E-015
  • [概要]1990年代の日本における銀行-企業間の関係をみると、(1)1990年代半ばの債券市場の規制緩和にもかかわらず、銀行借入金への依存度が増加し、(2)銀行借入金の多い企業ではメインバンクからの融資額が増加した。本稿では、コーポレートガバナンスの観点から、こうした事実が借入側企業の行動におよぼす影響を検証する。結論として、雇用調整の観点から、メインバンクは比較的業績のよい企業のリストラを促す一方、リストラを必要とする企業への規律付けは不十分であったことが明らかとなった。

 「The Unwinding of Cross-shareholding: Causes, Effects, and Implications」

  • [PDF:728KB]
  • MIYAJIMA Hideaki(RIETI Faculty Fellow)・KUROKI Fumiaki
  • February 2005 05-E-006
  • [概要]本稿は、1990年代に日本企業の株式保有構造に見られた劇的な変化について論じる。ここでは、ニッセイ基礎研究所と早稲田大学で開発した所有構造に関する詳細かつ包括的なデータを用い、銀行や企業が株の保持・売却を行う決定要因に焦点を当てる。金融危機以前に資本市場へのアクセスが容易で外国人持ち株比率が高く収益性の高い企業は持合いを解消する傾向がある一方で、1990年代前半に資本市場へのアクセスが困難で外国人持ち株比率が低く収益性の低い企業は、銀行との株式持合いを維持する傾向がある。所有構造の変化が業績に及ぼす影響については、銀行による所有は、1980年代中盤以降、一貫して業績にマイナスの影響を及ぼしていることが明らかとなった。

 「Toward a Comparative Perspective on Corporate Governance and Labour Management」

  • [PDF:256KB]
  • Gregory JACKSON(RIETI Visiting Fellow)
  • July 2004 04-E-023

 「M&Aと被買収企業のパフォーマンス:対日M&Aと国内企業間M&Aの比較」

  • [PDF:552KB]
  • 深尾京司(RIETIファカルティフェロー/一橋大学経済研究所)・権 赫旭(一橋大学経済研究所)・滝澤美帆(一橋大学大学院経済学研究科)
  • 2006年03月 06-J-024
  • [概要]本稿では、『企業活動基本調査』の個票データを利用し、製造業、卸売・小売業における対日・国内企業間買収の効果に関する分析を試みた。また、産業別の比較に加え、国内企業におけるグループ内M&Aとグループ外M&Aを区別した分析を行った。得られた主な結果は、(1) 外国企業は、労働生産性、および収益率が高く、研究開発や輸出を活発に行っている日本企業を買収対象に選ぶ傾向がある。また、買収後は、被買収企業の生産性指標や収益率はさらに改善した。(2)日本企業は、収益率、および輸出比率が低く、負債比率が高い日本企業を買収対象に選ぶ傾向があった。また、買収後は、被買収企業の生産性指標や収益率には有意な正の効果は無かった。(3)産業別推計や国内企業間買収をグループ内・外の買収に分けた推計も行ったが、主な結果は違わなかった。

 「どの企業が敵対的買収のターゲットになるのか」

  • [PDF:323KB]
  • 胥 鵬(RIETIファカルティフェロー)
  • 2006年02月 06-J-008
  • [概要]本稿では、村上ファンドとスティール・パートナーズの2つのモノ言う投資ファンドの買収対象企業と無作為抽出の同業他社を比較した実証分析により、企業価値が低く、現預金などのキャッシュ・フロー・リッチで、負債比率が低く、株式持合比率が低い企業が対象になりやすいとの結果を得た。これは、1980年代米国の敵対的買収対象企業にみられたフリー・キャッシュ・フロー仮説があてはまることを意味しており、モノ言う株主の圧力は、当時の米国同様、早期退出を促し企業価値を高める役割を果たす可能性が大きい。

 「M&Aの経済分析:M&Aはなぜ増加したのか」

  • [PDF:152KB]
  • 蟻川靖浩(RIETIファカルティフェロー)・宮島英昭(RIETIファカルティフェロー)
  • 2006年04月 06-J-034
  • [概要]1990年代以降のM&Aの急増の主要な要因は、産業や企業の成長性や収益性へのショックである。とりわけ、M&Aを活発に行っている産業あるいは企業の特性としては、成長機会が豊富で収益性も高く、負債比率が低い。その意味で、1990年代以降のM&Aは、成長機会の豊富な企業や産業が、その成長機会を実現する手段として用いてきたということもできる。

これまでのプロジェクトに関連するRIETIの出版物

 『日本企業変革期の選択』

  • 執筆者:編著:伊藤秀史
  • 出版社:東洋経済新報社/3600円
  • ISBN 4-492-52130-5
  • 発行年月:2002年09月