企業統治分析のフロンティア

研究プロジェクトの概要

1990年代後半、マクロ経済の環境が大きく変化し、規制緩和・制度改革が急進展した結果、日本企業では、事業戦略・組織戦略・企業統治に関して大規模な実験が展開され、内外の注目を集めてきました。宮島英昭ファカルティフェローをリーダーとするコーポレートガバナンス研究チームでは、この分野の第一線の研究者および実務家の参加を得て、1990年代後半以降の日本企業における統治構造の改革の実態と、その企業パフォーマンスに対する影響の解明を主要なテーマとして研究を続けてきました(詳細はこれまでの研究活動を参照)。本年度は、これまでの研究の延長線上に立って、次の2つの課題を追求しています。

(1) M&Aに関する研究の前進

これまで形態別件数の時系列推移、財務特性、企業統治特性に関するデータベースの構築を進めてきました。宮島(2006)では、近年のM&Aの増加に接近する際の視角、近年の増加するM&Aの歴史的、国際的特徴を整理し、蟻川・宮島(2006)では、1999年からの国内企業間のM&A増加の要因の定量分析を試みました。2006年度は、前年までのM&Aの研究の中で十分に解明できなかった問題に取り組んでいます。すなわち、

  • 米国を中心としたこれまでのM&Aの研究は、M&A波動の発生要因、M&Aの経済的役割について、どのような理論的枠組みを設定し、その実証的検証は何をどこまで明らかにしてきたのか、に関して近年の最先端の研究動向を整理し、サーベイ論文を執筆する。
  • その上で、日本の近年のM&Aは果たして企業価値の上昇に繋がっているのか否か、企業価値向上に繋がっているとすれば、いかなるタイプのM&Aが有効なのか、という問題について、標準的な手法である累積異常収益率CARの推計を通じて接近する。

(2) 企業統治分析に関するフロンティアの開拓

コーポレートガバナンスに関する問題領域のうち、内部ガバナンス(取締役会・インセンティブシステム)、外部ガバナンス(株主・債権者による規律、M&Aの役割)などの分析は、すでに研究が進展し、本研究チームでも幾つかの成果を挙げてきました。しかし、企業統治に関連して、残されている問題は少なくありません。たとえば、日本企業の実証分析に即してみても、次のような問題が重要であると考えられます。

  • ポスト持合い期の日本企業の株式所有構造
  • 新興企業や上場子会社のガバナンス問題
  • 内部ガバナンスと事業ポートフォリオ・内部組織構造との関係(ファイナンス、企業ガバナンス、企業組織の総合的理解)

こうした問題は、長期的には、東アジアにおけるコーポレートガバナンスの平準化という問題にも接続します。本研究チームでは、本年度を、企業統治分析におけるフロンティア開拓の基礎研究の時期と位置づけ、経済産業省産業組織課・競争環境整備室とも協力しながら、企業統治に関連する重要論点を洗い出す一方、これまでの理論的な分析・実証的な分析をサーベイし、新たな実証分析の方向と、それを可能とするデータの構築の方向を目指します。
その一環として、下記の3点に関して、本年度末を目途に論点整理を試みることを予定しています。

  1. 企業のガバナンス構造が企業業績に与える効果について、これまでどのような理論的枠組みが設定され、その実証的検証がどこまで進展してきたのか。
  2. ガバナンス構造が企業業績に影響を与えるメカニズムは何か。
  3. La Porta, Lopez, Shleifer and Vishny(以下LLSV)らの提唱する法と金融の枠組みの再検討(米SOX法の評価も含む)

上記を踏まえた近年の最先端の研究動向と今後の検討課題などに関して、こうした作業を通じて、政策的インプリケーションの強い企業統治分析の新たなフロンティアの開拓を目指したいと考えています。