やさしい経済学―潜在成長力と生産性

第7回 グローバル戦略を

深尾 京司
ファカルティフェロー

日本の生産性上昇を加速させるには、これまでみてきたIT(情報技術)活用や無形資産投資、企業の新陳代謝、労働の再配分などに加え、急速に進むグローバル化に経済をいかに対応させるか、そのための戦略がカギを握る。

1990年代以降の直接投資拡大により、今では資本や技術が国境を越えて簡単に移動する。このため、日本企業が研究開発で技術知識を蓄えても、それは日本の生産性上昇に直結しにくくなった。日本企業は新技術を中国やインドでの生産に適用するかもしれないからである。

ちょうど都道府県が工場立地を競ってきたように、世界は企業誘致競争の時代に突入した。よい職を生み出すビジネスをいかに日本に誘致するかに、今後の生産性上昇は大きく左右されよう。

この点では法人減税や、参入障壁の撤廃・経済連携協定の締結を通じ相手国を日本製の財・サービスに開放させることなどが重要になろう。法人減税を企業優遇とする批判は、国際環境の変化を理解していない面がある。高い法人税率で損をするのは、逃げ足が速く生産を海外に移転して対応できる企業ではなく、よい職が得られない日本の労働者かもしれない。

高度な技術や知識をもつ外国人労働者の獲得も、日本の潜在成長率を高めるうえで重要な課題であろう。その競争は、欧米をはじめグローバルなレベルで激化しつつある。

今後10-15年程度のうちに予想されるもう1つの大きな国際環境の変化は、中国やインドの台頭により、アジアが豊かな国のひしめき合う欧州連合(EU)のような状況に近づくことである。物価の格差を調整した中国の1人あたり国内総生産(GDP)は、すでに韓国の80年代半ばの水準に達している。それ以降の韓国並みの経済成長を、仮に中国がこの先続ければ、15年後には2000年ごろの韓国並みの豊かさをもつ、韓国の26倍の経済規模の巨大国家が出現することになるのである。

今後、発展著しいアジアで域内分業が進むため、日本経済の貿易依存度は急速に高まる。従来のように産業をフルセットで抱え込むことは、効率性と競争力の点で困難になる。そうした点も考え合わせると、日本にとってはIT生産や金融・保険などを含めて付加価値の高い産業を強化・育成していくことが、とりわけ重要となろう。

2007年12月20日 日本経済新聞「やさしい経済学―潜在成長力と生産性」に掲載

2008年1月16日掲載

この著者の記事