やさしい経済学―潜在成長力と生産性

第4回 企業の新陳代謝

深尾 京司
ファカルティフェロー

各産業の全要素生産性(TFP)上昇は(1)生産技術向上やコスト削減などに伴う工場など各事業所内のTFP上昇(内部効果)(2)TFPの高い事業所の拡大や低い事業所の縮小(再配分効果)(3)TFPの高い事業所の開設(参入効果)(4)TFPの低い事業所の閉鎖(退出効果)に分解できる。米国、英国、韓国などの実証研究によれば、(2)(3)(4)の新陳代謝機能が製造業のTFP上昇をけん引した。

図は日本の製造業を48に分類し各産業(業種)で工業統計表の工場レベルデータを用いて要因分解し、これを製造業全体で集計した結果である。米英韓と異なり、日本の製造業では昔からTFP上昇の原動力は(1)であった。

製造業のTFP上昇の要因分解

1990年代のTFP低迷の原因として、銀行が不良債権問題の表面化を避けようと不振企業に追い貸しや金利減免を行い延命させたことの影響(ゾンビ企業仮説)が指摘されてきたが、少なくとも製造業では、新陳代謝機能は80年代初めから停滞していた。90年代のTFP低迷は、主に内部効果の大幅低下から生じた。工場の老朽化などがその原因と考えられる。なお、2000年以降は再配分効果が改善する一方、負の退出効果が拡大した(図)。負の退出効果は生産性の高い大企業が工場を海外に移転した電機で著しかった。製造業の空洞化も生産性低迷を助長した可能性があるわけだ。

非製造業については、97年以降の労働生産性に関して企業レベルで同様の分析をした(民間活動の8割をカバーするJIPミクロデータベースによる)。大部分の非製造業では、大きな負の再配分効果が生じるなど、新陳代謝機能は停滞した。産業規模が大きい建設、運輸で生産性の高い大企業が大量に雇用を削減し生産性の低い中小企業のシェアが高まったのが一因だ。一方、通信、卸・小売りでは大きな正の内部効果・再配分効果が生じた。再配分効果の改善は卸・小売りで生産性の低い企業が雇用を縮小し、通信で生産性の高い企業が雇用を拡大したことなどによる。

日本の生産性向上には、参入障壁の撤廃などで新陳代謝機能を高めることが急務だ。

2007年12月17日 日本経済新聞「やさしい経済学―潜在成長力と生産性」に掲載

2008年1月16日掲載

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