やさしい経済学―潜在成長力と生産性

第3回 資源配分と生産性

深尾 京司
ファカルティフェロー

今回は産業間の資源配分と潜在成長力の関係をみよう。

学歴や年齢、性別、就業上の地位などが同じという意味で同じタイプの労働者でも、支払われる報酬(賃金率)は産業(業種)ごとに大きく異なる。資本財を投入する場合も同じで、得られる収益(資本収益率)には産業間でかなり格差がある。そうした格差が労働や資本の生産性を反映している場合、労働や資本の移動を阻む制度のゆがみを正してそれらを賃金率・資本収益率が低い産業から高いところへ移動させることができれば、国内総生産(GDP)の増大が可能になる。たとえば、ある労働者が低賃金の小売業から高賃金の金融業に転職すれば、経済成長率の押し上げ要因になる。これが資源の再配分効果である。

マクロ的にみて資源の再配分は経済成長率をどの程度押し上げるのだろうか。それは、再配分効果を(1)労働投入増加(2)資本投入増加(3)全要素生産性(TFP)上昇――という経済成長率を構成する3項目のどれに含めるかという点で異なる2つの手法(成長会計)を比べることで測れる。

再配分効果は、新たな成長会計(筆者らが参加するJIPなど)の手法では労働や資本の投入増加(労働・資本が低賃金・収益から高賃金・収益にシフトするという意味の質の改善)として計測されるが、同じタイプの労働や資本財は産業(賃金率・収益率)が異なっても同じ質の労働・資本財と考える従来の成長会計の手法の場合は、そうではなくTFPの上昇の一部に含まれる。つまり再配分による成長率押し上げ効果は、従来の手法で測定されたTFP上昇率と、新たな手法で測ったTFP上昇率の差に等しい。

表に政府などを除く日本の民間部門について、こうした関係がまとめてある。近年は資本の再配分効果が悪化気味な半面、労働の再配分効果は拡大傾向にあり、1990年以降は従来の手法で測定されたTFP上昇の大半が労働の再配分効果によることがわかる。これは労働投入が農業や繊維など賃金率の低い業種で減る一方、情報関連・法務・会計など高賃金率の業種で増えたことなどに起因する。

資源の産業間再配分効果とTFP上昇

2007年12月14日 日本経済新聞「やさしい経済学―潜在成長力と生産性」に掲載

2008年1月16日掲載

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