今後の日本の財政再建をめぐる議論をいくつかの視点から取り上げてきた。最後に改めて整理してみたい。
再建の進め方をめぐっては、歳出削減を増税より優先させるのはいいとして、歳出削減だけでは、プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化は困難で、ある時点で消費税を中心とした増税が不可避だと思われる。
その増税のタイミングや幅に関して政府・与党などで意見が割れているのは、政治的な思惑を別にしても「歳出削減を徹底させるために増税は遅くするべきで、そのほうが増税幅も圧縮できる」という考え方と、「増税が遅れれば、政府債務残高の対国内総生産(GDP)比率(現在主要7カ国で突出して高い)は回復困難なほど上昇する恐れがある」という見方などが交錯しているためでもある。正念場を迎えた改革論議は、こうした論争のポイントを十分踏まえつつ、その帰すうを注視していく必要があろう。
その際、とりわけ重要なのは、消費税と社会保証制度のあり方だろう。消費税の税収規模は大きく、単純に税率を現在の倍にすれば、それだけで一般家計のプライマリーバランスは大方均衡するが、歳出削減努力の大切さを考えれば、これは安易な策となる。
ただ一方で、合計特殊出生率が昨年1.25まで低下した(1日発表)ことなどに象徴される少子高齢化・人口減少時代に、高齢者を支える現役世代が減るなかで社会保障費の膨張圧力が続くことを考えるとどうか。現在と将来の現役世代にどこまで負担を求めてよいのか。与謝野馨経済財政担当相が今週触れたように、消費税を社会保障目的税として位置づけるかどうかも含め徹底議論して消費税のあり方を決める必要があろう。
また、歳出削減や増税を漸進的に行うのか、大胆に断行するのかという議論もある。大胆に進め、それにより政府債務残高を目立った形で削減することを明確に国民に伝えることができれば、その分、前に述べた非ケインズ効果が働き、民間の消費などが活発になって景気後退を防げる、との考え方は、あながち間違っていないとも思われる。
いずれにせよ、成長率や金利、出生率などをめぐる将来の不確実性を考慮しつつ財政にとって不利な状況が重なった場合でもプライマリーバランスを着実に黒字にできるよう、慎重かつ責任ある政策を遂行すべきである。
2006年6月2日 日本経済新聞「やさしい経済学 財政改革」に掲載