財政再建にあたり歳出削減か、増税か、という論争もある。少し前に谷垣禎一財務省が2007年の通常国会にも消費税率引き上げの法案提出を、と発言すると、中川秀直自民党政調会長らがまず歳出削減を考えるべきだと批判した。最近では後者が優勢のようだが、どう考えればよいのだろうか。
国の一般会計の予算は歳入が約80兆円で、ざっと税収で50兆円、国債(新規)発行で30兆円を調達している。歳出面では概数で社会保障費21兆円と国債費19兆円、地方交付税など15兆円が大きい。公共事業は7兆円、文教・科学振興と防衛は各5兆円前後である。
プライマリーバランス(基礎的財政収支)を回復するというのは、一般会計に限れば国債発行と国債費の差額約11兆円を歳出削減か増税で賄うということだ。小泉純一郎首相は任期中に消費税の増税はしないと早くから公約し歳出削減を重視してきた。歳出削減優先の議論には、日本の公的部門には無駄が多い、日本は小さな政府を目指すべきだ、早く増税を言い始めるだけで歳出削減に向けた「改革」の推進力が失せてしまう、という見方が中心にある。
一方、早期に増税を考えるべきとの議論は、決して歳出削減が不要というものではない。歳出削減で赤字を減らす余地は限られているうえ、増税のタイミングが遅れるほど、政府債務の対国内総生産(GDP)比率が高くなり、危険な状態に陥りかねないとの考え方が根底にある。
この問題に関しては、さまざまな議論が可能である。まず歳出削減を最優先させ増税を遅らせるシナリオは、無駄な歳出を減らすための政治的圧力(無駄を徹底的に省かない限り増税は認めない)を維持するには適切といえる。
ボッコーニ大のペロッティ氏らは、財政再建と好景気を両立させた国の多くでは大胆な歳出削減が鍵となった点を指摘する(1月24日付経済教室など)。歳出削減の方が既得権の整理など構造改革も伴いやすく、増税より再建の持続性があるとみる。
もっとも、これは今の日本には単純に当てはまらない面もある。わが国では、社会保障以外の歳出の削減だけでプライマリーバランスを黒字にするのは困難だ。極端な仮定として公共事業、文教・科学振興、防衛それぞれ半減したとしても届かない。ここで改めて、社会保証制度の一段の見直しや消費税の位置づけとその上げ幅を総合的に考えることが重要となってくる。
2006年5月31日 日本経済新聞「やさしい経済学 財政改革」に掲載