どうすれば、機械が優れた教育をしてくれる「教育の機械化」が実現するのでしょうか。まずは人間なしでも教育現場が回る環境を整備しなくてはいけません。それが教育のデジタルインフラ作りです。
データを自動で収集し、分析に基づいた教育を自動で実行できるようにするのです。日本でも昨年末、小中学校の児童・生徒に1人1台のパソコンを配備する政策が閣議決定されました。これもデジタルインフラ作りのいい事例です。
教科書やノートが電子化されインターネットにつながれば、生徒が教科書のどこで目を輝かせたか、どこでつまずいたのかといった情報が蓄積されていきます。それを使えば、生徒ごとに違った教科書を作る、成長に合わせて書き換える、つまずいている箇所にヒントを出す、といったことができます。
海外ではこうしたデジタル個別教育の効果測定が始まっています。米タフツ大学の研究者の実験によると、ボストンではタブレットを通じて生徒の能力に応じた個別教育を実施し、数学や英語の偏差値が3~4ほど上がりました。
先進国だけでなく、インドでも同様の結果が報告されています。米カリフォルニア大学の研究者の分析では、中学校の補習にコンピューターを通じた個別教育を用いたところ成績が目覚ましく向上しました。
面白いのは、コンピューターを導入するだけでは何の効果も得られず、むしろ害さえあるという結果も多いことです。デジタル化が真価を発揮するのは、吸い上げたデータを使って個々の生徒に最適化された教育を見つけ、実行するソフトウエアと一体になったときです。日本のパソコン1人1台政策への重要な示唆となりそうです。
データで教育の効果を測ることは、軟水と硬水のどちらが健康にいいかを測るようなものです。対して、デジタル化はそもそも水道を引くことに相当します。デジタル化のように地道な土台作りこそ、勘に頼って後悔することを繰り返す人間の限界を乗り越え、玉石混交の教育政策の中から宝を機械的に拾い出すための早道になるのです。
2020年2月27日 日本経済新聞「やさしい経済学―教育をデータで斬る」に掲載