やさしい経済学―教育をデータで斬る

第6回 日本が遅れを取り戻すために

成田 悠輔
客員研究員

前回は明治時代まで遡って日本の教育政策を語りました。令和の時代に100年以上前の話題を持ち出したのは、現在の日本は教育のデータと分析が圧倒的に不足しているからです。

筆者は海外で8年以上研究していますが、日本発の教育分析を日本人以外が話題にするのを見たことがありません。しかし、諦めたら終わりです。何が必要か、指針を描いてみます。

第一に必要なのは自治体と研究者の歩み寄りです。教育と聞くと少人数学級のように全国的な政策を思い浮かべます。しかし、教育がなされ、データが生まれるのは学校や家であり、それらを束ねる自治体こそデータと課題の源です。

海外の研究の多くも、データの源泉は市区町村です。「Think Globally, Act Locally」という言葉の通り、分析能力を持つ研究者と、自治体の草の根の出会いが肝心です。日本でも東京都足立区や兵庫県尼崎市が研究者と教育効果の測定を始めており、出会いの気配が感じられます。

次に必要なのは国が持つデータの掘り起こしです。例えば、批判も多い日本の高等教育。仮に国立大学の入試データと確定申告データを連結することができれば、合格最低点ギリギリで受かった学生と、ギリギリで落ちた学生の将来を比べられます。

これにより国立大学の教育が、確定申告からわかる失業率や家族構成などに、どう影響しているか分析できます。とっぴな空想ではなく、すでに紹介したように似た試みは世界各地で行われています。

最後に挙げたいのは社会実験の実現です。例えば、抽選で奨学金や幼児教育のクーポン券を配り、受け取った人と受けていない人の、成績や将来の年収を比べるようなことができれば、給付型奨学金や幼児教育無償化などの政策を、限られた財源で効率よく進められるようになります。

日本でも今年のお正月、抽選で100万円を配る「お年玉」実験が民間人によって行われました。その後の幸福度への影響を測るため、経済学者や社会学者にも協力を呼びかけています。国や自治体も一考すべきではないでしょうか。

2020年2月24日 日本経済新聞「やさしい経済学―教育をデータで斬る」に掲載

2020年4月13日掲載

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