やさしい経済学―教育をデータで斬る

第3回 民間の力が持つ効果

成田 悠輔
客員研究員

前回は、有名校に入っても将来の成績にはあまり影響がない、という結果を紹介しました。逆に効果が証明されている例もあります。いわゆる「民営公立学校」の試みです。

まず、昔から公教育には批判が多いことを思い出してください。公教育は教員組合などのしがらみが多く、成果を上げたからといって昇給するわけでもありません。いい教育をするインセンティブが弱く変化が遅い、という批判です。

こうした問題の改善策として考えられるのは、経営を民間の社会起業家らに委ね、しがらみから解き放つことです。そして自治体や文部科学省が民営学校と契約を結び、成績や人気などの成果に応じた報酬を与えるという仕組みはどうでしょう。学費は税金でまかないタダにします。

こんな「市場原理主義」的な発想を実行したのが英国や米国です。過去20年ほどで無数の民営公立校が登場しました。日本でも2019年に公設民営の中高一貫校が大阪市に誕生しています。では、民営公立校は従来の公立校より効果があるのでしょうか。

その効果を測る研究も進んでいます。米英の研究者や筆者らは、米国のデンバーなどの教育委員会提供の機密行政データを使い、抽選入試でたまたま受かった民営公立学校の生徒と、外れて伝統的公立校に行った生徒を比べました。抽選入試も前回お話しした「自然実験」の例と言えます。

その結果、民営公立校は成績向上に貢献することがわかりました。特に数学での効果は大きく、1年間、民営公立校に通うと、偏差値が平均で4~5も上がりました。大都市の貧困地域など、伝統的な公立校がうまく機能していない地域ほど効果が大きいこともわかっています。

ただ、この結果を歓迎しない人もいます。民営公立校の多くは朝から晩まで生徒を勉強漬けにする「スパルタ塾」傾向があり、成績不良の生徒を退学させることもいといません。そうなると「成績さえ上げればいいのか」という疑問が生まれてきます。教育は目先の成績以外にどんな影響を及ぼすのか。この難問に次回お答えします。

2020年2月19日 日本経済新聞「やさしい経済学―教育をデータで斬る」に掲載

2020年4月13日掲載

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