やさしい経済学―教育をデータで斬る

第1回 測れるもの、測れないもの

成田 悠輔
客員研究員

貧困家庭の子どもの増加、長時間残業を強いられる先生たち、大学や科学技術の衰退――。教育は様々な課題を抱えています。いずれもとても複雑な課題で、どんな政策が有効なのか、官僚や学者らが考えたくらいでは答えは出そうにありません。

そこで最近は「データと科学的根拠(エビデンス)に基づいた教育政策を」という声が聞かれるようになりました。世界を見渡すと、統計学や教育学、経済学では20世紀半ばから教育の効果をデータで測ろうという試みが始まりました。

エビデンス主義は政治にも浸透しています。米国ではエビデンスに基づく教育政策を掲げた一連の法律が、2000年ごろから整備されました。日本も近年の経済財政運営の基本方針(骨太方針)では「エビデンスに基づく政策立案を推進する」としています。

一方で、エビデンスを重視しすぎることへの懸念も根強くあります。「教育は心や人格を扱うのでデータや数字では測れない。成績のように測れるものだけを見てわかった気になるのは危険だ」という声です。

どちらが正しいのでしょうか? この連載では、まず教育をデータで測ろうという試みを紹介します。「有名校に行くと幸せになれるのか」「教育は民間や市場の力に任せた方がいいのでは」といった疑問にデータで答えます。

そしてデータで何がわかったのかを知った上で、ふと我に返って「これで本当に教育がわかったのか」と反省してみます。すると、データでは答えることのできない教育の難問がくっきりと浮かび上がります。無理を承知で測れるだけ測ろうとすることで、逆に教育の何が測れないのかをあぶり出そうという戦略です。

教育にまつわる問題のうち、何がデータと数字では答えが出ないのか? 連載の後半でそんな「データの限界」にたどり着きますので、ミステリー小説のようにエンディングを予想しながら読んでいただければうれしいです。

2020年2月17日 日本経済新聞「やさしい経済学―教育をデータで斬る」に掲載

2020年4月13日掲載

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