経済がどれだけの富を生み出し、また蓄積しているのか。産業構造などが異なる国の比較には、生産や資本など各国が受け入れ可能な定義を定め、測定するルールが必要です。そのため国連は経済協力開発機構(OECD)などと協力して国民経済計算(SNA)というフレームワークを構築しています。一国経済の生産面を描写する国内総生産(GDP)統計は、SNAを代表する勘定です。
SNAは2008年、15年ぶりに改定されました。08SNA勧告は英語版で700ページを超えます。しかし国によっては、勧告に対応するのに必要な一次統計が欠如していたり、数人の担当者で整備せざるをえなかったりします。そこで各国は、自国の経済構造から見た重要性や、基礎資料の入手可能性を考慮して、自国の基準を設定しSNA統計を整備しています。
最新年のSNA統計の公表時には過去数年分の計数も修正されることが一般的です。そうした「年次改訂」に対し、新しい基準によって過去の推計値全体を捉え直すのが「基準改定」です。そこでは概念変更に加え、新しく利用可能となった基礎資料や、推計モデルの見直しなど、精度改善への成果も組み込まれます。
ときに旧基準からの改定幅は大きくなります。中国では04年に初めて実施された経済センサスを反映し、サービス業のGDPが50%近く増加し、GDP全体も17%上方修正されました。
日本のSNA統計を、国連のSNA勧告と識別し、JSNAと呼ぶことも根付いてきました。08SNAに基づくJSNAは、今年12月から順次公表されます。欧米諸国よりも2年ほど遅れましたが、長期系列の改善や情報の拡充など、内閣府経済社会総合研究所の様々な研究成果も織り込まれます。それは60年ぶりに改正された統計法のもと、政府の統計委員会で議論され、09年に閣議決定された「公的統計の整備に関する基本計画」に基づく取り組みの成果です。
この連載ではGDP統計を中心として基準改定の含意を解説します。
2016年9月22日 日本経済新聞「やさしい経済学―GDP統計の基準改定と課題」に掲載