やさしい経済学―日本企業のオープンイノベーション

第8回 トップの統率力が成果左右

元橋 一之
ファカルティフェロー

経団連21世紀政策研究所のアンケート調査によると、研究開発をしている日本の大企業の大半が何らかの形態のオープンイノベーションに取り組んでいます。しかし、そこから成果を上げている企業は2、3割にとどまっています。これは社内組織に問題があるためと考えられます。中でも特に重要なのは経営トップのリーダーシップです。

日本企業のモノづくりはどちらかというと現場の競争力に支えられてきました。しかし、自前主義を捨てて、イノベーションのエコシステム(生態系)の中で戦略的な提携を模索する新たな時代には、経営トップの役割が大きくなります。イノベーション活動は企業の競争戦略の根幹であるが故に、他社との協業は大きなリスクを伴います。

オープンイノベーションから成果を上げられない企業は、リスクを避けようとして思い切った投資ができないか、あるいは活動が中途半端で終わる場合が多いと考えられます。企業内にリスクを避けようとする前例主義や減点主義といった慣行・風土が存在し、それがオープンイノベーションの阻害要因となっているとしたら、それを改革していくのが経営者の役割です。

もちろん、企業全体として「攻め」と「守り」のバランスをうまくとることは大事です。利益を上げている既存の事業部門では、現場の業務遂行能力を重視した「守り」のマネジメントが有効であることが多いでしょう。一方、「攻め」の部分である新事業の創出に関しては、リスクテイクを許容する組織改革が必要です。中でも、全社的なイノベーション戦略のリーダーの存在が重要です。

日本企業の現状を見ると、研究開発部門の長であるCTO(最高技術責任者)が新規事業の創出も含めてリーダーシップをとるケースが増えています。正しい方向ですが、その成否はどこまで「攻め」の部分に経営資源を投入できるかによります。この全社的な「攻め」と「守り」の配分を変えることで、オープンイノベーションに向けた経営姿勢を全社的に示すことが、経営トップに今求められている役割だと思います。

2016年7月21日 日本経済新聞「やさしい経済学―日本企業のオープンイノベーション」に掲載

2016年8月3日掲載

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