やさしい経済学―日本企業のオープンイノベーション

第3回 外部連携、社内に推進組織を

元橋 一之
ファカルティフェロー

日本の大企業では、オープンイノベーションの取り組みはどの程度進んでいるのでしょうか?

経団連21世紀政策研究所が行ったアンケート調査によると、研究開発をしている上場企業の8割近くが何らかの活動をしています。ここでのオープンイノベーションの定義は「外部の技術や知識をとり入れた新たな価値創造活動」です。ライセンスや共同研究といった1対1の外部連携のほか、クラウドソーシングなど不特定多数のコミュニティーとの関係も含みます。

外部連携の目的として、「新しい技術シーズの探索」と「新しい事業機会の創出」を重要視する企業が多く、次に「研究開発スピードの短縮」「既存事業の強化」が続きます。多くの企業が研究開発の効率化よりも、技術や事業の幅の拡大を求めていることが分かります。ただし、実際に成果を上げているのは、「技術シーズの探索」で3割強、「新事業の創出」で2割強の企業にとどまっています。

これはオープンイノベーションから経営効果を引き出すための社内の組織体制が不十分なことに原因があると考えられます。大企業は社内にしっかりした研究開発体制を持っています。外部からの技術導入は、この自社組織より優れた技術が外にあるということで、自社の研究者にとって耳障りな話かもしれません。社内の組織的な抵抗感を払拭するためには、経営トップのリーダーシップが必要です。オープンイノベーションに関する担当役員がいる会社は、「技術シーズの探索」から、より高い確率で成果を上げています。

一方、オープンイノベーションを使った「新事業の創出」には新しいビジネスモデルが必要です。三菱ケミカルホールディングスはグループ内外の企業と、研究開発とビジネス展開の両面で連携する「オープン・シェアード・ビジネス」を展開しています。技術を囲い込んで利益を独占するのではなく、技術をシェアして市場を広げることで、パートナー企業も含めた全体としての収益最大化を狙ったものです。そのために、研究開発だけでなく、事業戦略も含め、全社的なリーダーシップの下で推進する体制を採っています。

2016年7月13日 日本経済新聞「やさしい経済学―日本企業のオープンイノベーション」に掲載

2016年8月3日掲載

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