労働者のメンタルヘルスを企業全体の問題として捉えていくべきだという認識は海外でも広がりつつあります。欧州安全衛生機関は2011年に、欧州企業のメンタルヘルス対策の事例研究をまとめた報告書を出しました。
この中で注目すべきは、現場の労働者や管理職、経営層も含めた企業全体としてメンタルヘルス問題に対処する重要性を指摘している点です。
産業保健部署にはメンタルヘルスが悪化した労働者への処置といった事後的な対応が求められます。一方、人事部署は採用段階でストレス耐性の高い労働者をふるい分けることが求められるなど、企業内で部署の垣根を越えて全社的なメンタルヘルス対策に乗り出す構造にはなりにくい傾向があります。
各種の施策を導入しても、その効果を事後的に評価できていない企業が多いことも各国で共通した課題といえます。報告書は、施策を評価して浮かび上がってきた改善点を継続的に修正し、メンタルヘルスの問題を一部の部署に任せるのではなく戦略的に企業経営との観点から対処していく必要性を説いています。
日本企業では、産業保健部署が中心となって社員向けに様々なアンケート調査を実施するなど、健康関連データを社内で収集することも多いと思います。しかし、職場の成果や人事情報、企業業績といった他のデータと組み合わせて分析したり、他社データとの比較をしながら知見を蓄積したりすることは、必ずしも多くありません。
部署の垣根を越え、また、多くの企業が協力しながら、ときに産学が連携して知見を見いだし蓄積していくことが、日本企業の競争力を高める上でも必要といえます。
2014年11月3日 日本経済新聞「やさしいこころと経済学―メンタルヘルス」に掲載