現在、日本ではワークライフバランスや人材の多様化、女性活躍推進など人材マネジメント上の課題に注目が集まっています。労働経済学的にみると、これらの課題と職場のメンタルヘルス問題には共通点が多く、本質的には働き方という同じ課題としてとらえることができます。
我々の研究では、ワークライフバランスや人材の多様化などの推進組織を設置する企業では、メンタルヘルスの不調による休職率も低い傾向となる結果が出ています。こうした関係をもたらすメカニズムについては今後詳細な検証が必要です。1つの解釈として、働き方の改善や見直しといった社内の取り組みにより、労働者の働き方や働き方に対する姿勢が変わり、結果として労働者のメンタルヘルスの改善にもつながっていると考えられます。
ワークライフバランス施策の導入や女性活躍推進が、一定の条件の下で、企業業績を高める費用対効果があることを示す研究結果もあります。
かつて経済合理性が高いと評価されることも多かった日本的雇用慣行は、少子高齢化やグローバル化といった環境変化にさらされ、近年では、労働力を最大限に活用しにくくなってきています。アベノミクスの成長戦略で全員参加型の社会に向けて女性の活躍推進や働き方の改革が強調されているのも、働き方全般の見直しが日本企業の生産性や競争力の向上につながる見通しがあるからといえます。
日本人の多くは依然として長時間労働をしています。長時間労働をもたらす原因を特定し、不必要な業務や非効率な働き方を見直すのは、日々の業務をこなすことで精いっぱいの現場にとって容易なことではないでしょう。
メンタルヘルス問題の解決を目的にするだけでなく、それをきっかけに誰もが働きやすい環境を企業内に広めていくという方向性は、結果的に効率的な働き方の実現にもつながります。長期的にみて企業にとって合理的な戦略になると考えられます。
2014年10月31日 日本経済新聞「やさしいこころと経済学―メンタルヘルス」に掲載