やさしいこころと経済学―メンタルヘルス

第3回 仕事の特性なども影響

黒田 祥子
早稲田大学

山本 勲
ファカルティフェロー

長時間労働以外にメンタルヘルスを悪化させる職場の要因として、働き方や仕事の特性が挙げられます。産業ストレスを研究するロバート・カラセックが提唱した「仕事の要求度コントロールモデル」でも指摘されています。

このモデルは、表のように、仕事の要求度(仕事量、時間、集中度や緊張など)とコントロール(自律性)の2つの評価軸から仕事の特性を4つに分類します。要求度が高いが自律性が低い「高緊張な仕事」に従事する労働者ほど、ストレスにさらされやすいことを指摘しています。

表:仕事の要求度コントロールモデルでの仕事の特性
表:仕事の要求度コントロールモデルでの仕事の特性

同モデルを踏まえ、700人の労働者のデータを用いた我々の研究では、仕事の内容や評価体制、職場環境などの要因が労働者のメンタルヘルスの状態に及ぼす影響も検証しました。その結果、労働時間の長さや個人に固有の要因を取り除いたうえでも、同モデルが当てはまりました。

仕事の守備範囲が不明確で、仕事の進め方に裁量がない労働者ほど、メンタルヘルスの状態が悪くなる傾向が認められます。また、突発的な業務に頻繁に対応しなければならない仕事や、周りの人が残っていると退社しにくい雰囲気がある職場ほど、労働者のメンタルヘルスを悪くする傾向もありました。

メンタルヘルスが個人の問題なら、いかにそうした潜在的なリスクを持つ労働者を採用しないか、またリスクが顕現化した労働者をいかに排除するかという誘因が企業に生じます。しかし、個人の要因を除いても、長時間労働や仕事の特性が労働者のメンタルヘルスに影響を与えるという結果は、メンタルヘルスを組織の問題として捉える必要性を示唆しています。

2014年10月24日 日本経済新聞「やさしいこころと経済学―メンタルヘルス」に掲載

2015年2月17日掲載

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