各国の中央銀行が採用しているモデルは、「ニュー・ケインジアン」モデルと呼ばれます。この呼称は、賃金や価格などの硬直性を前提としている点で経済学者のジョン・メイナード・ケインズの理論と共通点がある一方で、期待を厳密に考慮している点などで従来のケインズ理論とは異なる新しいモデルであることを表しています。
このうち最も単純なモデルは、インフレ率、生産、政策金利について、(1)生産が拡大するとインフレ率が高まる(2)金利が上昇すると需要が縮小する(3)インフレ率や生産が高まると政策金利が引き上げられる――という関係を表す3つの式から構成されます。(3)は中央銀行の政策ルールを表しており、考案した米スタンフォード大のジョン・テイラー教授にちなみ、「テイラー・ルール」とも呼ばれます。
このモデルでは、例えば原油価格の高騰など生産コストが上昇するようなショックがあると、インフレ率が上昇します。中銀が物価上昇を抑えようと政策金利を上げると、生産水準が下がるというトレードオフ(二律背反)を受け入れざるを得ないことになります。
期待(予想)が経済に与える影響も明示的に組み込んでいます。このため、例えば中銀が「2年程度、政策金利をゼロにする」と約束した場合など「時間軸効果」をシミュレーションすることもできます。
実際に中銀が使っているモデルでは、この3つの変数に設備投資や名目賃金などの決定式も加え、金融政策が消費だけでなく設備投資の増減を通じて実体経済に影響を与える仕組みになっています。物価の決定では、賃金動向がコストに与える影響も考慮します。
海外要因を組み込んで拡張したモデルでは、政策金利の変更が為替相場に影響を与えます。これが輸入品や輸出品の価格に影響を与えることを通じて、生産や消費が変化する仕組みも組み込んでいます。
2014年6月24日 日本経済新聞「やさしい経済学―予測に挑む『期待を組み込む』」に掲載