「動学モデル」は、今日の変化が昨日や明日の変化に影響を受けて決まるモデルです。
価格の粘着性(硬直性)を例に考えてみましょう。企業はコスト見合いで価格を設定します。もし価格をすぐには変更できない(価格の粘着性)なら、今期に決める価格を将来にわたって据え置く可能性があると考えます。将来の収益にも影響するため、今日の価格を将来のコストを予想した上で決定するはずです。
コストが変化しても前につけた価格を変更しないのはおかしいと思う方がいるかもしれません。しかし、車の価格は新車として販売する前に設定され、その価格が長期にわたり据え置かれたりします。
価格の粘着性がある場合、価格の決定は、今日の変数(価格)が明日以降の変数(コスト)によって決まる動学モデルで示されます。これは「フォワード・ルッキングな(将来を見越した)価格設定」と呼ばれ、近年、「期待(予想)の管理」を通じた金融政策が有効になる最も重要なメカニズムです。
次に、動学モデルの性質についてみてみましょう。図は一時的な金利引き上げショックに対するインフレ率の反応をシミュレーションしたものです。金利が1%引き上げられても、価格の粘着性からインフレ率の動きは緩慢で、ゆっくりと低下します。名目金利の引き上げで、インフレ率が低下しはじめたのを受け、名目金利は引き上げられます。その後2年程度かけ、インフレ率が徐々に元の水準に戻るのがわかります。
動学モデルを用いれば、1年後、2年後の経済を想定することが可能になるのです。
2014年6月17日 日本経済新聞「やさしい経済学―予測に挑む『期待を組み込む』」に掲載