動学モデルの大きな特徴は、期待(将来の予想)を厳密に考慮しているという点にあります。ほとんどの経済行動は期待をベースに決められているといっても過言ではありません。
価格設定は、価格の粘着性(硬直性)があるため、将来のコストの変化などを見越した「フォワード・ルッキング」なものになりますし、消費税の引き上げが見込まれる場合には、今期の消費を増やそうと駆け込み需要を取り込む動機が生まれます。株式投資なども、将来の株価や企業の収益見通しをにらみながらなされるはずです。
そしてこの期待の存在こそが、天気予報など自然現象の予測と比べ、経済予測を難しくしているのです。現在の行動が予測を変化させ、予測がさらに現在の行動に影響を与えるという一連の流れを考える必要が出てくるからです。
実は、大学院レベルの講義は、この期待をいかに表現するか、ということに最も時間を費やすことになります。期待といっても、どこからか勝手に与えられるものではないため、現在、利用可能な情報で、期待を表現する必要があります。
具体的には、将来の期待が過去や現在のデータ(変数)で表現されればよい、ということになります。こうした表現が解となります。解を求める際、通常の動学モデルでは、企業や消費者など経済主体が極めて合理的に行動すること、具体的には、将来の経済変数の決まり方は現在の経済変数の決まり方と同一であると想定します。これが合理的期待と呼ばれるものです。
これを求める方法は、大学院レベルの経済学では重要ですが、同時に、学生が最もつまずきやすい論題でもあります。
この連載では、いかにして期待を現在および過去の変数で表現するかには触れず、期待を組み込んだモデルを用いると何ができるのか、どのような現実的な政策分析ができるのか、といったことに焦点を当てたいと思います。
2014年6月18日 日本経済新聞「やさしい経済学―予測に挑む『期待を組み込む』」に掲載