やさしい経済学―予測に挑む「期待を組み込む」
第7回 約束の効果を評価
藤原 一平
ファカルティフェロー
将来にわたり低金利の維持を約束(コミットメント)する時間軸政策が、なぜ現在の景気やインフレ率に影響を与えるのか考えてみましょう。
経済に詳しい人なら、「長期金利が低下するのだから、これを指標とする貸出金利が低下し、投資が増加するなどして需要が増える。その結果、インフレ率が上昇するのは当たり前」と思われるかもしれません。こうした効果があるのはもちろんですが、それだけではありません。
将来の価格を今設定しなくてはならない「価格の粘着性」に直面する企業を例に考えてみましょう。この企業は、来年のコストがどの程度になるかを考えて、価格を設定することになります。
ここで中央銀行が、来年も金利をゼロにすると約束したとしましょう。さらに、この約束が信じられて長期金利も低下したとします。するとこの企業は、来年は設備投資などの需要が喚起されてコストが上昇すると予想するはずです。結果として今期、価格を変更できるなら、少し高めに設定しようとするはずです。
少し矛盾を感じるかもしれませんが、価格の粘着性があるからこそ、企業の価格設定は先を読んだフォワード・ルッキングなものとなり、先行きの低金利政策にコミットメントする時間軸政策が足元のインフレ率に影響を与えることができるのです。
動学モデルには、このような期待を通じた筋道が明示的に組み込まれています。このため、時間軸による変化を考えない静学モデルでは分析が難しかった、期待の管理を通じた金融政策の効果などが評価できるようになったのです。
2014年6月20日 日本経済新聞「やさしい経済学―予測に挑む『期待を組み込む』」に掲載
2014年7月11日掲載
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