やさしい経済学―予測に挑む「期待を組み込む」

第6回 長期金利下げる方策

藤原 一平
ファカルティフェロー

日本では、政策金利(すなわち短期金利)がほぼゼロに近い状況が15年近く続いています。多くの先進国の中央銀行も、2008年のリーマン・ショック後に政策金利を下限のゼロ近くまで引き下げ、その状況が現在も続いています。

これは「流動性のわな」と呼ばれ、伝統的な金利の引き下げを通じた需要喚起策に頼れない状況です。ケインズ経済学の考え方に従うと、いくら資金供給量を増やしても、実質国内総生産(GDP)や金利に影響を与えられません。なんら有効な政策がないように思えてしまいます。

こうした中、各国の中銀で用いられているのが「時間軸政策」、最近ではフォワード・ガイダンスと呼ばれる政策です。簡単にいうと、政策金利がゼロ制約に直面していても、長期金利はまだゼロではないので、これを下げてみよう、という考え方です。具体的に長期金利をどう下げるかは、なかなか難しい問題ですが、時間軸政策の考え方に従うと、中銀が長期にわたり短期金利をゼロにすると約束すればよい、ということになります。

長期金利は、予測される短期金利の平均になると考えられるからです。例えば10年債の利回りは、今から来年までの1年金利と、来年以降、満期までの期間中に期待される1年金利(フォワード・レートと呼ばれます)の予測値の平均となるはずです。こうした考え方は、金利の期間構造に対する期待仮説と呼ばれます。

この仮説が正しいのであれば、中銀の低金利政策へのコミットメント(約束)が市場に信じられると、1年後からのフォワード・レートの低下を通じて、10年債の利回りも低くなるはずです。

こうした将来の低金利政策へのコミットメントは、日本をはじめとする多くの中銀で採用されています。そして実際に、中銀が長期にわたる低金利維持をコミットメントした国では、長期金利も低下しました。

2014年6月19日 日本経済新聞「やさしい経済学―予測に挑む『期待を組み込む』」に掲載

2014年7月11日掲載

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